活動内容について


 この世界には、想魔と呼ばれる存在がいる。正体、不明。生息地、不明。食性も不明の恐ろしい怪物だ。一つ分かっているのは、人の記憶を奪う存在であるということ。

 想魔は一般的に、素質のある人間の元に現れるとされている。そして、その人の最も鮮烈な記憶と引き換えに、魔法をひとつ授けるのだ。その魔法は、効果も範囲も人それぞれ。明け渡した記憶によって変わるともされているが、真偽は定かではない。

 想魔に記憶を奪われたものは忘却者、魔法を手に入れたものは契約者と呼ばれる。通常はこの二つが分かれることはなく、まとめて忘約者と呼ばれるのが一般的だ。そして、その忘約者が関わる事件を捜査、解決することこそが、想い出研究同好会の活動である─────。


「───と、いうわけです。分かりましたか?」


「……はあ」


 そう説明を締めくくる雷花の前で、風雅が理解できないとでもいう風に首を傾げる。はて、そこまで難しいことは言っていないつもりなのだが。どこが伝わらなかったのだろう、と雷花は同じように首を傾げた。


「おや。伝わりませんでしたか?」


「いや、分かっちゃいるんだ。分かっちゃいるんだが……なんでまた、そんな突拍子もないことしようと思ったんだ?」


 風雅はそう言って頭を掻き、雷花を見上げる。その逞しい左手の薬指には、赤い宝石の入った指輪が嵌められていた。

 想魔の結晶。想魔と契約した、忘約者にのみ与えられる魔法の宝石だ。これを体に身につけることで、魔法を使えるようになる。素質のないものや、他の忘約者が身につけると何も起こらない。セーフティー装置もバッチリの代物である。

 忘約者の証でもあるその輝きを見つめながら、雷花は淡々と返す。


「忘約者である君なら分かるでしょう? 魔法を使った犯罪は、年々増えていると」


「それを解決すんのは警察の仕事だろ。オレたち素人が首を突っ込んで良い話じゃねえ」


「警察の力を持ってしても、処理が追いつかないのが現状です。ならば、せめて学校内で起こる事件だけでも、僕たちで解決しようじゃありませんか」


「契約してねえお前や梅が首を突っ込んでいいもんじゃねえって言ってんだ!」


 バンッ、と強く机を叩き、風雅が立ち上がる。雷花を睨みつけるその瞳には、怒りと、それ以上の心配が隠されていた。雷花はその目線を冷静に受け止め、メガネの位置をカチャッと戻す。そのフレームの一部が、夕日を受け止めて青く輝いた。その輝きに、風雅が一瞬息を呑む。その反応も無理はないと思いつつ、雷花は冷静に続けた。


「僕が忘約者でないと、いつ言いましたか?」


「……そ、んな……お前、いつから……ッ!?」


「それはお答えできません。キッカケなんて……忘れてしまいましたから。風雅くんと同じですよ」


「……っ!」


 雷花の物言いに、風雅は的確な反論を思いつかない。それも当然だ。想魔との契約は、記憶の喪失を伴う。契約時の記憶を忘れてしまって、なぜか魔法だけ持っている、なんて人はざらにいるのだ。風雅もその一人なのだから、無理のない話だった。

 メガネのフレームに組み込まれた想魔の結晶を輝かせ、雷花は風雅を見つめる。風雅は少し項垂れた後、隣に座っている梅を見下ろした。その視線の意味するところは、梅も分かっているのだろう。忘約者でないのなら、首を突っ込むなと。しかし梅はその視線には答えず、首から下げていた紐をギュッと引っ張って、


「う、梅、お前は……」


「……ごめんね、フカちゃん。わたしも、雷花くんと同じなの」


「─────っ!?」


 その紐の先から出てきたのは、ネックレスの姿に見立てた黄色い想魔の結晶だった。夕日を受けて光るその輝きに、風雅はフラフラと足を惑わせる。その反応も無理はない、が、生憎待っている時間はない。雷花はごく冷静にその姿を射抜き、問いかけた。


「これで納得いただけましたか、風雅くん。僕たちは、僕たちの力で事件を解決します。批判も非難も受け付けません」


「……ああ、分かった。よーく分かったよ。お前らは、考えを変える気はさらさらねえって」


 惑っていた足が止まり、まっすぐに地面へと降り立つ。刹那、その目がしっかりと開かれ、確固たる意志を持って雷花を見た。それはまさしく息を呑む、圧倒的な気配を持った覚悟の表れで。


「だから、オレも入会してやる。お前らに、無茶だけはさせねえ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る