3

「ユウせんぱーい!お昼一緒に食べましょー!」

早くもユウちゃん呼びは飽きたらしい。

元気に駆け寄ってきたミイに力無く手を振りかえす。


ここのところ、ミイはずっと私と一緒にいる。


「ユウ先輩のお弁当はなんですか?」

「菓子パン。」

「またですか?太りますよ〜?」


日当たりのいいベンチで私たちはお昼を食べる。

陸上部が一心不乱に走っている。

前は教室でレイと食べていた。

ミイがこうして無理やり連れてきてくれるのはちょっと助かるような気もする。

教室にいたら、空っぽなことを実感してしまうと思うから。


「ミイはじゃーんっ!朝、張り切って作ってきたんですよぉ。今度、ユウ先輩にも作ってきますね!」

「大丈夫。私は菓子パンでいいよ。」


卵焼き、ナポリタン、唐揚げ…

どれもシンプルな定番メニューだが、菓子パンの私には魅力的に見えた。


「もー。先輩、一口あげますよ。何がいいですか?」

「ええ?じゃあ、卵焼き…。」


レイの作る卵焼き、美味しかったな…。

私はいつもレイの作る卵焼きをもらっていた。

醤油の効いた香ばしい卵焼き。

レイはいつも嬉しそうな顔で、私を見てた。

「ユウは美味しそうに食べてくれるから嬉しい」のだと、よく言っていた。


「はい、あーんっ!」

「んむ。」


もぐ、もぐ、と咀嚼して私はむせる。

この世界には二種類の卵焼きがあることを…私はすっかり忘れていた。

そばにあった水筒で流し込む。


「ええっ!大丈夫ですか!?」

「いや、ごめん、卵焼き甘いの食べなれてなくって…。」

「あっ!しょっぱい派でした!?すみません…。」


見るからにしゅん、としたミイに私は大きく手を振る。

作ってくれた本人の前で私はひどいことをしてしまった。

優しい後輩を、こんな顔にさせてはいけない。


「ううん、私こそごめん。色々気遣ってくれてありがとう。ごめんね…!」

「いえ、こちらこそ後輩失格です!先輩のお口に合う卵焼きを作れるように特訓しなければ…!」

「そこまでしなくていいよ…?」


ミイは寂しげに卵焼きを頬張っていた。

私がしょっぱい派というだけで、ミイの卵焼きは確かに美味しかったと思う。


「レイのお弁当の卵焼きがしょっぱかったからさ。それで食べなれちゃってたんだよね…。」

「そう、なんですか。それはどんな味でしたか?ミイ、料理得意なんです。完璧に再現して見せますよ!」

「ほんと?嬉しいな。ありがとう。ミイ。」


ミイは目を細める。

三日月のような目が、こちらをのぞいている。


「任せてください!先輩のためならなんでもします。レイ先輩の代わりに!!んで、どんな感じでしたか?」

「んーっとね、お醤油の香りがしてね…。」


美味しかった、という感想しか出てこない。

なんだか無性に悔しかった。

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