第4話 ダークサファイア
宝玉の声が、満足げな低い唸りとなって頭の中に響いた。
『貴様のアプローチは粗野だが、効果的だ』
視界に、光る赤い線が現れた。それは俺を公園から導き、質屋とラーメン屋に挟まれた、いかがわしい雰囲気のビルへと続く、霊的なGPSだった。点滅するネオンサインには「カラオケ天国」と書かれている。
蒼は希望と恐怖が入り混じった表情で、小走りで俺についてきた。「あ、あの、博人さん、どこへ行くんですの? ここがスタジオですの?」
『これでよかろう』宝玉が断言した。『個室で、防音。密室で何が起ころうと、ここの人間は誰も気にせん』
俺はドアを押し開けた。カウンターにいた気だるげな若者は、スマホからほとんど目を上げない。宝玉が俺のポケットに札束を具現化させた。俺はぱりっとした紙幣を二枚、カウンターに放り投げる。「二人。二時間で」
若者の目が、その現金を見て見開かれた。「こちらへどうぞ。七号室です。廊下の突き当たりです」
俺は震える蒼を、暗くべとついた廊下へと導き、七号室のドアを開けた。そこは窓のない小さな箱で、ひび割れた合皮のソファと、古くなったビールの匂いが漂っていた。
蒼は中へ足を踏み入れ、希望に満ちていた表情を曇らせた。ここが、彼女が思い描いていた華やかなスタジオではないことは明らかだった。
俺は彼女の後ろから部屋に入り、ドアの鍵をスライドさせた。ガチャン、と重く、決定的な音が響く。
「さあ、リラックスしろよ、蒼ちゃん」俺は意地の悪い笑みを浮かべながら言った。「オーディションを始めようぜ」
蒼はスクールバッグを握りしめ、その指の関節は白くなっていた。「何を始めるって…? 機材も見当たりませんし…ここは…」彼女は俺の方へ向き直り、その言葉は恐怖に大きく見開かれた瞳と共に、喉の奥で途絶えた。
びちゃり、と俺のシャツが裂ける生々しい音が狭い部屋に響き渡り、四本の太い影の触手が背中から突き出した。
「け、化け物っ!」彼女は絶叫したが、その声は防音壁に完全に吸い込まれた。彼女は後ずさり、低いテーブルにつまずいてソファに倒れ込む。バッグの中を掻き回し、必死に変身アイテムを探している。「ルミナスサファイア…メタ…!」
彼女が言い終える前に、触手が殺到した。二本が毒蛇のように彼女の手首に巻きつき、頭上のソファに縫い付ける。別の二本が、彼女の足首をきつく締め上げた。
「離してっ!」彼女は叫び、恐怖と怒りの涙が頬を伝った。「嘘だったのね! あなた、一体何者なの!?」
『奴の精神は強いな』宝玉が冷静に評した。『結構なことだ。その分、屈服させた時の味は格別だろう。堕とせ』
「お前を輝かせてやるってのは、嘘じゃねえよ」俺は彼女に近づきながら、低い声で言った。「俺のものになれ。誰よりも輝かせてやる。誰もがお前を見るようになるぜ、蒼。妹じゃなく、お前をな」
俺の言葉は、どんな物理的な攻撃よりも強く彼女を打ちのめした。
「どうして…どうしてそれを…?」この汚い部屋で、この化け物に口にされた秘密が、彼女の最後の防御線を粉々に打ち砕いた。彼女はもがくのをやめ、その身体は絶望と共にぐったりと力を失った。
ソロのスポットライトという約束、ついに茜を凌駕できるという期待は、すでに根を張っていた闇の種だった。彼女の右手首を掴んでいた触手から、小さく鋭い針が伸び、彼女の肌を刺した。黒い液体が、彼女の全身に流れ込む。激しい震えが彼女の身体を駆け巡り、低く、混乱した呻き声が唇から漏れた。
『肉体は屈した』宝玉が宣言する。『意志もそれに続く。汚染しろ』
俺は彼女のそばに膝をつき、冷たい黒の宝玉を手に取った。一度の、無慈悲な動きで、彼女の制服を引き裂き、胸元を露わにする。心臓の上で、彼女の魔法の核である淡い青色の光が、弱々しく、怯えるように脈打っていた。
「スポットライトが欲しかったんだろ、蒼」俺は宝玉を彼女の肌のすぐ上で彷徨わせながら、囁いた。「妹を出し抜きたかった。お前の変身は、もうすぐ完了する」
俺は宝玉を、彼女の核に押し当てた。
蒼は絶叫した。闇が彼女の中に注ぎ込まれ、純粋な苦痛と抗いがたい快感が入り混じった声だった。影のようなオーラが彼女の身体から噴出し、小さな部屋の中で嵐のように渦巻いた。彼女の制服は黒い煙となって消え、歪んだ新たな魔法少女の衣装へと再構成されていく。
それは彼女の元の衣装を、残酷に模倣したものだった。滑らかなセーラー服は今や黒いレザーに変わり、危険なほど胸元が開いている。銀色の縁取りは、くすんだガンメタルグレーに。胸のサファイアは、部屋の光を吸い込むかのような、黒い星型の水晶に変わっていた。
触手は、まるで最初から存在しなかったかのように、するすると俺の身体へと戻っていった。彼女はソファの上で息を切らし、変身を終えて横たわっていた。ゆっくりと、彼女は身を起こす。その動きはもはや狂乱的ではなく、意図的で、新たな、捕食者のような優雅さに満ちていた。
彼女はレザーの手袋に覆われた自分の手を見つめ、次に新たな姿を見下ろした。その顔に恐怖の色はない。ただ、ゆっくりと芽生える認識が、恐ろしく、冷たい笑みへと変わっていった。
「この力…」彼女は言った。声は同じだが、張り詰めた優等生らしさは消え、滑らかで、ぞっとするような自信に満ちていた。「穏やかで、冷たくて…そして…正しい気がします」彼女は俺を見た。その瞳は、今や深く、吸い込まれるような藍色に変わり、恐怖の色は微塵もなかった。ただ、計算と、冷たい、新たな忠誠心だけが宿っていた。
「生まれ変わり、おめでとう、蒼」俺はニヤリと笑い、椅子にもたれかかった。「で、俺のオファーはまだ有効だぜ。お前をスターにしてやる」俺はにやりと笑う。「さあ、こっちへ来い、ダークサファイア。お前の新しい力について、聞かせろ」
冷たく、全てを悟ったような笑みが、ダークサファイアの唇に広がった。彼女はぬるりとした優雅さで汚れたソファの横を通り過ぎる。新しいレザーブーツは、べとついた床の上で音を立てなかった。彼女は俺の椅子の前に跪いた。その動きは洗練されており、まるで生涯ずっとそうしてきたかのようだった。
彼女は手袋に包まれた手を俺の膝に置いた。その感触は、服従であり、同時に所有権の主張でもあった。
「あなたにお仕えすることが、私の喜びです、マスター」彼女は喉を鳴らすように言った。「あなたは、私がずっと渇望しながらも、弱さゆえに自ら手に入れることのできなかったものを、くださいました。私の力について、ですけれど…『ルミナスサファイア』は盾でした。守るためだけの、共有された、弱い光。実に退屈でしたわ」
彼女が片手を掲げると、小さな、きらめく闇の球体が具現化し、カラオケ機器の画面から安っぽい光を吸い取った。
「今、私は絶対的な闇の領域を作り出し、敵の視界を奪うことができます。でも、私の真の才能は…」その力の真の意味を理解した時、残酷で、美しい笑みが彼女の顔に広がった。「他者のエネルギーを吸い取ることができるのです。自信、魔力、攻撃…戦う意志さえも。それを自分の中に取り込み、私はより強くなる」
彼女は俺を見上げた。その瞳は、生涯抑圧されてきた野心で輝いていた。
「想像してみてください、マスター。戦場で茜の隣に立ち…私はただ…彼女の光を奪うことができるのです。彼女を薄暗く、瞬く蝋燭の灯にして、私は超新星になる。私が、ついにスターになるのよ。唯一のスターに」
彼女は、嫉妬と欲望から鍛え上げられた、俺の完璧な武器となるだろう。
「そいつは使えそうだな」俺は彼女の頭を撫でながら言った。「妹をここに連れてこい。彼女のオーディションの時間だ」
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