反逆の騎士ーFactoryー

先手

 反逆者は憤りから天に剣を向ける。


 反逆者は傲りから天を掴もうとする。


 彼に憤りはない、傲りもない。ただ純粋に己の力を奮うべき場所を求め彷徨い、反逆者の側になっだけ。


 故に憤りはない。


 故に傲りはない。


 彼は反逆者となろうと道を突き進む。己の為に、仕える者の為に、その道を信ずる心に光も闇もないのだから。



ーー


 水の国アンディーナ北部アピスの大穴にあるクレスの屋敷に滞在していたエルクリッド達は傷を癒やし終え、次の目的地へと向かう為にリープのカードを使ってコスモス総合魔法院アンディーナ校へと赴いていた。


 校舎の正面口へと転移したエルクリッド達を待っていたのは同校の教員にして十二星召のハシュだ。軽く手を挙げて反応しつつゆっくりと歩き、肩に白髪の幼女カミュル院長を乗せてエルクリッド達と合流する。


「タラゼドさんお久しぶりっす。で、他の子らは大分成長したな」


 気さくなハシュに笑みで応えつつ、エルクリッド達は来訪の目的を思い返す。

 シェダとリオが修行中に開発した術を、二人が腕試しをしている間に十二星召クレスとルナールとが実験し、その結果を元にして改良したものが完成に至りネビュラ達の手がかりを掴む為に動き出す為だ。


 そこでまず目星をつけたのが密造カードの生産拠点である。十二星召カラードが積極的に狩りをしたのをきっかけに一斉摘発が行われ、ネビュラ達の資金源を断つと共に彼らが足をつくことを嫌って拠点を畳むと読んだからだ。

 そしてその場所として特定されたのが水の国アンディーナと地の国ナームの国境北部であった。二国の騎士団が動く前に先手としてエルクリッド達とハシュが赴き、第二陣的に騎士団による制圧という構えで臨む予定である。


「ルナールさんから術式の概要は聞いてるっす。一応院長と俺二人で術の維持と固定はこなせますが、代わりに動けねぇから調査とか頼みます」


「他の十二星召の皆さんは? クレスさんは宿泊させた代わりに働けーってので言われたのもあるしルナールさんも自由に動かさないってのはわかりますけど」


「あんま俺らが動くと目立つからな。それに術式の魔力賄うのに相当な量が必要になるから、人を割きすぎると他に対応できねぇ」


 エルクリッドの質問に肩に乗るカミュルを撫でながらハシュは答え、すやすやと気持ち良さそうに眠るカミュルにはやる気を感じない。

 ふと、ハシュの言葉の矛盾にノヴァが気づき、同じ事はエルクリッド達リスナー三人も思い浮かべる。


「あれ? 術式に魔力いるのにハシュさんと院長さんだけなんですか?」


「院長はこう見えてタラゼドさん以上に魔力あるし、俺も十二星召じゃ一番魔力多いし、今回は一番近いとこにいるってのもあったからな」


 それに、と何かを言いかけたハシュだがすぐにいやいいと話すのをやめ、それよりもとすぐに切り替えた。


「今回は速さ勝負だ。ルナールさんの占いじゃまだそこでカードの生産はされてるみたいだが、警戒されないようにってのもあって実際どうかまでは確認できてねぇし、拠点がどういうものとか警備がいるとかまではわからねぇぶっつけ本番になる」


「その上で先制攻撃をかけて調査し騎士団の到着と共に制圧、ですね」


 騎士団所属のリオにあぁと答えたハシュが本の形をしたカード入れを手に持って一枚のカードを取り出すと、それをタラゼドへ投げ渡し受け取らせ確認させる。


「これは密造カードですね……わたくしは時間停止を、ってことですね?」


「時間停止には範囲を決めて対象物に直接触れるないし視界に入れてる事が条件っすから、それ用にってことです。使用許可は事前にとってあるんでそこは気にしなくて問題ないし、確実な物証確保や搬出とかを防ぐにはその方法しかないですしね」


 禁術時間停止の提案にタラゼドの表情から穏やかさが消えるが、ハシュの言葉を受けて仕方ありませんねと返しカードを懐へと入れる。

 ハシュの言うように確実に物証を抑えるのは重要な事だ。時間停止でカードを動かせないとなれば相手の混乱は予想でき、制圧までの時間稼ぎにもなるだろう。


「ひとまずそんな感じ、かな。質問とかなきゃ現地から少し離れたとこにリープで飛ぶぜ」


 カード入れからリープのカードを抜いたハシュが問いかけると、すぐにエルクリッドから疑問が飛ぶ。


「え? 現地に直に行けばいいんじゃないですか?」


「リープは便利なカードだがある種の魔法探知に引っかかるんだよ。直に飛ぶとそれで弾かれてとんでもねぇとこに転移するってのは四大国でも使われてる警備方法だし、どーも相手も同じもんを知ってるらしくてな」


 なるほど、とエルクリッドは納得しつつも、ハシュが何かを考えているようも感じ視線を送る。しばしの沈黙の後、目で訴えるなとため息混じりにハシュは返して考えていたある事を明かす。


「ネビュラってやつは確かに密造カードの製造とか技術的な部分は天才的だが、大国の包囲網に関しては詳しくはねぇはずなんだ。だが十五年前の時といい、それを逃れてるって事は詳しい奴が味方にいると読む……で、心当たりが一つあって、できればそうあってほしくねぇって話さ」


 言われてみれば、と、実際ネビュラと邂逅したエルクリッド達は彼が技術者ではあっても、それ以外に精通するかという点で疑問に思えた。

 ハシュの言うように四大国の包囲網に詳しい人間が味方にいる、と考えるのは普通ではあるが、そこで騎士であるリオがハッと彼の心当たりに関しある名前を口にする。


「アルダ・ガイスト、ですか?」


「アルダ・ガイスト? 誰です、その人」


 ノヴァの問いにリオは一瞬躊躇いつつも、隠す必要はないと思ってアルダの詳細を明かす。


「今四大国で使われている各国の連絡網や警備網、騎士の選定方法などを考案した風の国の騎士にして十二星召候補だった方です。二十年ほど前に行方不明になっても名前や活躍は伝えられいますが……ですが、仮にも騎士であり十二星召候補にもなった方がネビュラに手を貸すとは思えません」


 騎士とは国や民を守る者。心技体全てを求められる存在であり栄誉であり、守る為に力を使う事を誓った者だ。そして十二星召はエタリラの秩序を守る存在、その候補となる事もまた騎士の道と通ずるものがある。


 だからこそ現役騎士のリオは否定したかったが、ハシュが根拠となるある情報を彼女の目を見て沈着冷静に明かす。


「カナリア牢獄から大盗賊ザキラが脱獄した件をアヤセさんが調べた結果、アルダ・ガイストがかつて警備試験で使ったのと同じ手口だったのがわかった。警備試験の内容ってのは外に出ねぇし偶然同じってのはまずあり得ない」


 それは、と言い返しかけたリオだが、ハシュが小さく頷くのに言葉を詰まらせ手を強く握る。

 騎士が悪事に手を染めるなどあってはならない、ましてや功績を数多築き上げてきた程の実力者ならば。そんなリオの心中をエルクリッド達は唇を噛む彼女の表情から読み取り、ハシュも実際見なきゃわからねぇけどなと補足を付け加えながらカードへ魔力を込めた。


「とにかく今は仕事が先だ。アルダ・ガイストが協力してる可能性があるなら尚更、後手になるわけにはいかねぇからな……!」


「そう、ですね。ハシュ殿、お願いします」


「じゃあ行くぜ。スペル発動、リープ!」


 リオが落ち着きを取り戻したのを確認してからハシュがカードを発動し、その光に包まれエルクリッド達は先手を打つべく目的地へ向かう。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る