第4話、クラスメイト

今思えば、俺にとって花宮 真央は特別だった。

高校に入学してから3ヶ月程経ちクラスでは、中学からの知り合い同士や新しい友達と、いくつかのグループができていたが俺は周りに馴染めずいつも1人だった。

別にそれが嫌だった訳ではない。ただ、いつも、なんとなく退屈だった。

朝起きて、登校して、授業を受け、下校する。そんな当たり前の学生生活が退屈でたまらなかった。そんなある日、風邪をひき病院へ行った帰り病院のロビーで花宮 真央を見かけた。

看護師さんと親しげに会話をしている姿が目に入ってきた、この時は、誰にでも優しいクラスの人気者というイメージで、学校ではいつも1人でいる俺にさえ席が隣だからと律儀に挨拶を交わしてくれる。

そんな彼女が休日に病院で、しかも看護師さんと病院のロビーで楽しげに話をしていた。

「真央ちゃん楽しそうね!安心したわ!」

「はい!毎日すごく楽しくて、友達も出来たんですよ!」

そんな会話が聞こえてきて何故看護師さんに学校での近況報告をしているのか少し不思議に思ったが体が辛かったので顔を下に向け早足で横を通り抜けた。

それから3日後のことだった。

風邪が治り朝登校すると、既に席に座っていた花宮 真央から話しかけられた。

「あ!佐倉くんおはよ!体調もう大丈夫なの?」

「おはよ花宮さん、うん、もう大丈夫」

「そっかー!良かった!ところでさ...こないだ病院ですれ違ったのって佐倉くん、だよね?」

「え?あぁ〜、うん」

バレてたのか、気まずい。

「えーっと、もしかして、私と綾子さんの話してたことって聞いてたりする?」

少し困ったような顔で問いかけてきた。

綾子さん?あの看護師さんの名前だろうか。

「いや、まぁ、学校での近況報告みたいなの話してたのはちょっと聞こえたぐらいかな」

「そ、そっか、ならいいや、....いや佐倉くんならいいかな...」

「え?」

「よし!決めた、放課後時間ある?」

「放課後?あるにはあるけど...」

「じゃあ!ちょっとだけ待ってて、聞いて欲しい話があるの、いいかな?」

正直断りたかったが、あまりに真剣な顔でこちらの目をまっすぐ見つめながら言ってくるものだから断れず了承してしまった。

そして、放課後。

「ごめんね、待たせて、他の人には知られたくない話だから。」

笑いながらそう言いう花宮 真央から発せられた次の言葉で、俺の中で花宮 真央という存在が特別になった。


「わたしね、あと2年で、死んじゃうんだ」


静かだった。まるで世界が止まったかのようだった。そう言いながら笑う彼女の顔を今でも鮮明に覚えている。それ程に、この時の彼女は退屈だった日常を繰り返していただけの俺には、衝撃で、鮮烈で、切なく、そして、どこか美しいものに見えていた。



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