第2話、重なる
あれから俺はBAR【バイオレット】ほぼ毎日と言っていいほど通うようになった。
理由としては、毎回帰り際に速水さんが「明日もきてくださいね!」、「明日は何時に来ますか?」と言ってきて断りきれず通っている。
しかし、おかげでというべきかBARのマスターである佐々木さんとも仲良くなり、最近は佐々木さんに仕事の相談や愚痴を聞いてもらうのが日課となっている。
BARを開業するまで色々なことに携わってきたという佐々木さんから得られる知識や考え方に、毎回驚きと感激を抱いて止まない。
だが、なんというか、1つ、いや1人だけ、どうしても気になってしまう人がいる。そう、速水さんだ。彼女は誰に対しても明るく接客をしているし仕事中はお客さんに勧められてもお酒は1滴も飲まない。たまに見る他のスタッフはマスターである佐々木さんから許可をもらって飲んでいる姿をほぼ毎日のように見ているが彼女は全て断っている、真面目な子だ。
そんな真面目な速水さんだが、なんというか距離がいように近い...気がする。
帰ろうとすれば必ず引き止められ、無理だと悟ると明日はいつくるのかと聞いてくる。
そして少し仕事が落ち着くと必ず俺が座っている席の隣に来てはひたすらに話しかけてくる。
今日だってそうだ。
正直、苦手だ。
人と関わるのは昔から苦手だった。
話すのが嫌いとか、人が嫌いとかそんなではないけれど...ただ、ふとした瞬間...昔のことを思い出して冷たくしてしまう、そんな自分が嫌いだ。
彼女はいつも隣に座って話しかけてくる。
冷たくしてしまった時もおかまいなしに話しかけてくる。しかし、冷たくしてしまった時は何故か少し黙って目をずっと見つめてくる。
何かを感じて、察しているのだろうか。
そんな物思いにふけっていると彼女から聞かれた。
「ねぇ?佐倉さんはなんであの時わたしのこと、助けてくれたの?赤の他人なんだし無視する人のが多いと思うよ普通?」
その問いに少し考えてしまった。
何故なのかと聞かれれば思い当たる節はある。
でも、次の日が休みだからと珍しく飲みすぎてしまった頭ではそれをまとめることができず、彼女をただただ見つめた。
ふと口から自然に、「そういう気分だったから、かな」と出ていた。
今はそういうことにしておこう。
いつか彼女に話したら聞いてくれるだろうか。
いや、胸の内にしまっておこうと残った酒を煽り帰ろうとした。
「帰るの?明日は?来るよね?」
「...うん、またくるよ」
「絶対だよ?約束ね!またね!」
そういって手を振りながら見送ってくれる速水さんの姿が、彼女に重なってしまった。
まただ、速水さんとあの人は全く似ていないけど言動や醸し出す雰囲気が似ている。
性格も見た目も真反対なんだけどなぁ。
「いや、でも、そういや、あの人も毎回別れ際似たようなこと言ってたな」
少し酔いが回った体をひこずりながら、昔の思い出に酔い、ふと口から出た独り言。
その日、酔っていたせいなのか、昔のことを思い出したからか夢を見た。
あの人との懐かしくて、楽しくて、、、悲しい夢をみた。
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