第29話(中編)

湯浴みを終え、そのままライリー兄上の式典服の採寸に、立ち会う僕と侍女ズ。

デザイナーさんとパターナーさん、それから助手が数名いて、様々な長さのロープで、ライリー兄上の身体を測っていく。

「おや、ライリー殿下、前回より手足が伸びてますな。仕立て直ししませんと。」

そう言って、サイズが記録されている紙に書き込んでいくデザイナーさん。

ライリー兄上の身長、まだ伸びるの?このままだと、魔王サマに追いついちゃうんじゃない?

「そうか、では頼む。…末弟の従者が、俺よりも一回りデカくてな。追い越したいんだ。俺はまだ、伸びるだろうか?」


えっ!?ライリー兄上、魔王サマに張り合おうとしてる!

魔王サマ×ライリー兄上、もしくはライリー兄上×魔王サマが公式カプになる!?

「張り合える相手が、現れたのですな。…第二王妃様も、背が高いですから、可能性はあるかもしれませんな。」

和やかに返事をするデザイナーさん。


……モデル×デザイナー、デザイナー×パターナーもアリ…


カプの設定が広がる!嬉しい!

「式典服のお色なんですが…」

ズラっと色の一覧表が並べられる。

僕、こういうの見るの好きー!

受けは、こういう色味で、攻めは、その反対色になるようにしてって、考えるのが楽しいから!

「今回も適当に――いや…おい、そこのチビ、お前が選べ。」

ライリー兄上が僕を見て、“来い”と顎で合図する。

なんで呼ばれたの?!呼ばれるような素振りあった?!

――よし、お断りをしよう、僕は口を開く。

「…大変申し訳ございませんが、ご期待に沿えません。恐れ多いのですが――」

「俺は“選べ”と、言っている。――今のお前は、俺の“侍女”だよな?」

ヒェッ、ここまで“お前には、断る権利はない”が、怖く聞こえることなんて、そうそうないよなぁ。

――しかも、『今“の”お前』って、言ったってことは…

侍女になってる僕、バレてるじゃん!誤魔化せたと思ったのに!なんで一回見逃してくれたの?!

「…かしこまりました。」

ライリー兄上が座っているソファに近づき、色の一覧表を覗き込む。

すると、グイッと僕の腰を抱き寄せ、ライリー兄上は、僕を横抱きにして、膝の上に乗せる。

侍女ズは“眼福”とばかり拳を握り、他の侍女たちは、ザワザワしていた。

リアン兄上も、ライリー兄上も僕を膝に乗せすぎ!

アイゼア兄様とか、ワイアット兄様を乗せてくださいよ!

ライリー兄上が、リアン兄上を膝に乗せるのもアリだな…

なにそれ、見たい。

…いけない、現実逃避してた。

諦めて、一覧表を覗き込もうと、前屈みになっても、ライリー兄上の片腕が、僕の腰を抱えているので、ソファから落ちることはない。

よし、どうせなら、ちゃんとライリー兄上に似合う色を選びたいよね!迷うなー!

――そうだ!前に、“聖職者×近衛兵”の『制服は暴かないで』で描いた、近衛兵の制服の色にしよう!

ちょうど、“受け”のモデルがライリー兄上なんだよね!

「…上のジャケットは、ライリーあ…王子の髪色に合わせて、深いワインレッド、差し色には瞳の色に合わせた、イエローグリーン。下のズボンは、ジャケットを映えさせるような、明るいベージュを提案します。」

途中でライリー“兄上”って言いかけたけど、大丈夫だよね?

顔をあげると、デザイナーさんがポカンとした顔で、僕を見てた。

あれ?なんか変だったかな?

「…なるほど…今まで、伝統的な配色を心がけていましたが、王子個人に合わせる、とは考えなかった。とても優秀な“瞳(め)”をお持ちのようだ、是非うちで雇いたいものですな!」

「悪いな、こいつは“俺の”だ。」

ライリー兄上が、僕の頬に唇を寄せる。唇が触れるか触れないか、ギリギリの距離だった。

「キャァア」という小さな黄色い悲鳴と共に、何人かが倒れる音がする。

――人たらしだっ!!僕が、女の子だったらどうするんですか!

「ハハッ、失礼いたしました。では早速、取り掛かるとしましょう。」

ちょっと気まずそうに、去っていくデザイナーさんたち。

扉が閉まるのを見送ったあと、

「喉が渇いたな…飲み物と、小腹を満たせるものを持ってきてくれ。」

ライリー兄上が、侍女たちにアフタヌーンティーの用意をさせる。

「じゃあ、僕も」と、立ち上がろうとしたら、ビクともしない。体格差があるからだとしても、ちょっとくらいビクッとはしてよお!

「準備ができるまで、俺の話し相手になってろ、チビ。」

逃げ出すことを、許してくれるほど、甘くはないですよねー。

とりあえず、“侍女服を着ている理由”を、アフタヌーンティーの用意ができるまで、ライリー兄上に説明した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る