第29話(前編)
二日目はライリー兄上のところに、侍女体験しに行くよ!
ライリー兄上は基本、王国騎士団の来賓室を、第二の自分の部屋みたいに使っているから、リアン兄上みたいに鉢合わせになる事はない、はず!
よーし、がんばるぞ!おー!
侍女長の点呼が終わり、ライリー兄上の部屋へ向かう。
「申請書の種族項目に、“小人族”とあったので、こちらを使ってください。」
ライリー兄上の部屋付きの侍女から、小さいモップが手渡される。
さすがに僕の身長で、人間族の十三歳から十四歳の女子というのは無理があるので、平均より大きめの小人族ってことにしたんだ!
街で働くなら、最低年齢制限は、六歳とかだけど、王城で働くとなると、最低年齢制限が十三歳に引き上げられて、どこまで知識があるかテストを受ける。
紹介状がない限り、王城で働くって結構難しいんだ!
しみじみと考えたあと、気を取り直して、今日こそは床掃除をするぞ!
このモップの小ささなら、侍女ズも取れないでしょ!
モップの先端を水で濡らし、いざ!
――“ガチャ”っとドアが開く音がする。
そちらの方をパッと見ると
「誰か居るか?…おっ、ちょうどいいな。そこのお前、湯浴みの準備を頼む。―――ん?チビ?」
上半身裸のライリー兄上が汗を拭きながら、部屋に入ってきた。
きゃああああ!これが本当の“水も滴るいい男”!目に毒ですよ!えっちすぎる!ありがとうございます!!
一緒に床掃除をしようとしていた、他所の侍女たちが、バタバタと倒れていく。
――生き残ったのは、僕と侍女ズの四人だけだった。
「か、かしこまりましたぁ…」
……いきなり、視覚的暴力を受けるなんて、侍女って大変なんだなぁ。
侍女ズが慣れた手付きで、湯浴みの準備をしていく。
僕は、邪魔にならないように、ただ見てるだけ!僕もやるって、言える感じじゃなかったからね!
「今日は、午後から式典服のサイズ調整があるのを忘れて、いつも通りに稽古をしてしまった。俺は、シャワーでいいと言ったんだが、騎士団長に“そんなわけあるか!”とシャワー室から追い出されてしまってな。」
ライリー兄上が説明してくれるが、全然頭に話が入ってこない。
上の方にある窓から、陽の光が降り注ぎ、ライリー兄上を照らす。
これって普通の湯浴みだよね!?なんか絵画みたいな雰囲気があるんだけど!?
撮影したい!撮影したいよぉ!!
タオルを持ちながら、心の中で泣く僕なのである。
「ところで――」
ライリー兄上が腕を伸ばし、タオルごと僕の手首を掴み、顔を僕の左耳へと引き寄せる。
「そんな格好で、何してんだ。――ミオ?」
…なんで、いつもすぐにバレちゃうのさ!!
いつもは僕のこと“チビ”って呼ぶくせに、こういう時は名前で呼ぶんですか!
いや、まだ諦めるには早い!
「…なんのことでしょう?ライリー王子。」
精一杯の高い声を出して、お願い!誤魔化されてくれー!と念じながら、返事をする。
ライリー兄上は、上から下へと視線を動かし、ニヤッと笑ってから
「そうか、それはすまなかった。」
と、パッと手を離してくれた。
やった!誤魔化されてくれた!僕ってば女装の才能があったりする?!
うーん、別段いらないかも、女装の才能!
「なら、お前も湯浴みを手伝ってくれ。背中の方を頼む。」
そう言って、背中を僕に向けるライリー兄上。
手伝い?!手伝いってどうやるの!何やればいいの!?
わたわたしていると、エナが素早く身体を洗う用のタオルで、背中を拭いていく。
「(力加減は大丈夫ですか?って聞いてほしいッス!)」
小声でエナが指示してくれる。ありがとう、エナ!持つべきものは優秀な侍女!
「ち、力加減はいかがでしょうか?」
「ちょうどいい。が、俺は小せぇ侍女に頼んだよな?出しゃばった真似はするな。」
「…大変、申し訳ございません。」
だから、なんで分かるの?!武器を扱う人って、気配とかで分かるのかな?ちょっとワクワクしちゃう。僕だって男の子だもん!
エナが謝って、元いた位置に戻る。
戻る時に渡されたタオルで、さっきのエナの動きを真似するように、ライリー兄上の背中を拭く。
「いかがですか、ライリー王子?」
「あぁ、もう少し、強くてもいいな。手の大きさで、バレバレだったぞ。」
なるほど、そういう所で判断するのか!
どこかのタイミングで、本のネタになるかな?覚えておこう。
力を込めて、背中を拭いていく。
「背中はいいぞ、次はこっちだ。」
僕の方に向き直るライリー兄上。
健康的な肌の色に、程よく鍛えられた筋肉、お湯のせいで少し赤みがかった頬。
あまりにもスケベすぎる!男の僕でもドキッしちゃう!
ライリー兄上の湯浴み担当は、すごいな!どうやって耐えてるんだろう?!
「ライリー王子、そろそろお時間ですので、身支度に取り掛からせていただきます。」
エマが少し固めの声で、ライリー兄上に声をかける。助かった!
「もう、そんな時間か。では、“これ”は次の時まで、楽しみにしておこう。」
意地の悪い笑顔でそう言って、僕から身体を洗う用のタオルを掴み、エマに渡す。
――ライリー兄上ってば、そんなに僕に身体を洗って欲しかったのかな?
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