第28話(前編)


先日遊びに来てくれた、カイサルさんのおかげで、どうしても、女装メイドの可能性を追求したくて、侍女たちの持ち場に、潜入できないか悩んでる僕です。

そんな時、侍女たちを管理する部所から、お便りが届いた。

「中堅侍女の配置決めのご案内、期間は五日間…」

――コレだ!!

思い立ったら即行動!

僕は、急いでお母様の元へ向かう。

「失礼します、お母様。少し、よろしいでしょうか?」

「どうしましたか、ミオ?」

突然の僕の来訪に、少し心配そうな顔をしているお母様。

息を深く吐き、手に力を入れる。


「――身長190cm男性と、130cm男性が着られるメイド服があったら、貸していただけないでしょうか!?」


僕の言葉に、お母様は目を見開き、少し考えたあと

――侍女に耳打ちをする。

すると、一回り小さいメイド服を、侍女が持ってきた。

「……今は、130cm用のものしかありません。急いで手配しても、四日はかかるでしょう…」

悔しそうな顔で、扇子を握りしめるお母様。

「四日間……っ大丈夫です、手配をお願いします。」

「――ミオ、“タダで”とは、いきませんよ。」

お母様の言葉にハッとし、うつむき、深く息を吸って、お母様を見上げる。

「わかっています。――メイド服を着用した、僕と魔王サマの撮影会でいかがでしょうか。」

お母様が、ゆっくり目を閉じ、満足気に頷きながら、親指を立てる。


――交渉成立だ。


……ん?というか、なんで130cmのメイド服は、すぐ用意できたんだ?


「というわけで!五日間にわたる、中堅侍女の配置決め現場に潜入したいと思います!あっ今回は、魔王サマお留守番ね!」

「…しれっと言ったが貴様、余を巻き込んだな?」

いざ、侍女体験!


「点呼を取ります。名前を呼ばれた者は、返事をしてください。」

侍女長に、次々と名前が呼ばれていく。

――“中堅侍女の配置決め”というのは、担当を持たなず、各部門の下っ端をしていた新人侍女たちが、経験を積んだと判断され、専属の担当を決める為、五日間で、五人の王子の侍女を体験する、というものである。

ちなみに僕は、毎回お断りをさせてもらってる。

侍女ズで事足りてるし、どこで僕の漫画のことがバレるか分からないからね。リスク管理!

「エマ・アリッサ」「はい。」

「エリ・ジェイダ」「はい。」

エマとエリの名前が呼ばれる。

侍女ズは僕の専属侍女だけど、今回は特別に、

“五日間、遊びに行く別荘には、従者を一人だけ連れていく”という設定にした。

そのため、“四人”の侍女を貸し出すという体にしている。

「ミオーネ・モヴ」

「はい!」

頑張って、高い声で返事をする。

裏返ってないよね?大丈夫だよね?

今の僕は、襟足におさげの付け髪をし、元々目の下まである前髪に、頬に点々と描いた、そばかすメイク。

そして、お母様から借りたメイド服に身を包む『ミオーネ・モヴ』なのだ!

……メイド服がピッタリという事は、やっぱりお母様、僕にコレを着せる気だったな!

「エレアナ・ウィル・ジョーダン」「はいッス!」

エナも呼ばれた。これで点呼は最後かな?

「本日は、第一王子、リアン殿下の侍女体験をしてもらいます。」


体験と言っても、既に何十人もの従者が担当を持っているので、作業の説明を受けたり、比較的簡単な作業に入るぐらいだ。

僕たちが任されたのは床の清掃。

人生で初めて、雑巾をしぼる。だって、いつもはやってもらう側だからね、ちょっと緊張しちゃう!

ドキドキしながら雑巾を握り、水が入ったバケツに手を入れようとした瞬間――

エマに、もの凄いスピードで、雑巾が奪い取られ、しぼられ、手に戻される。

はっ、早い!見えなかった!!

……いつも魔王サマの口に、目にも止まらぬ早さで、おやつを入れるという経験を、ここで活かすなんて!

ぐぬぬ…いや、まだだ!“まだ床を拭く”という作業がある。

いざっ!

雑巾を床に当てようとした、―――その時、

「そこの君、少しどいてくれないか――おや、君は?」

その声に、パッと顔を上げてしまった。


今日も相変わらず、見目麗しいリアン兄上が、少し驚いた顔で、僕を見ていた。

…なんで公務中のリアン兄上がいるんですか!?

こういうのって、部屋の主人が居ない間にパパッと終わらせるんじゃないの?!

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