閑話「かわいい息子には、とてもかわいい衣装を着せよ。」
今までのあらすじ、お母様は強し!
またお母様に呼ばれたので、お母様のお部屋にいる僕と侍女ズと魔王サマ。
「今回は、前に着れてなかった、こちらを着てみなさい。」
そう言われて出されたのは、“チーパオ”という服。
お母様の実家だと“チャイナドレス”とも言われるんだって!
着物とも普段の服とも勝手が違って、とても着づらい。
「…先日の着物とは違って、体に沿ったデザインの衣装ですね。」
7分丈の袖に、膝下の長さで右足の方にだけ切れ目が入ってる、タイトめなドレス。
光沢のある薄いピンクに、赤い小花が刺繍されてるチーパオを着せてもらったエマが、ぎこちなさそうにドレスを見ている。
「髪型も変えてもらったんだね、エマ!似合ってるよ!」
緩い縦巻きを左に流してる。
僕が褒めると、少し恥ずかしそうに「ありがとうございます。」と返してくる。
「…露出しすぎではないでしょうか?」
袖がなく、裾丈は足首まであるけど、両方の膝の上から切れ目が入っている、
光沢のある黒色に白い“蓮”という花が刺繍されたチーパオを着ているエリ。
「衣装に合わせた髪型も似合ってますね。」
「…恐れ入ります。」
左右に縛って白いふわふわのカバーの中に入れている。お団子みたい!
お母様に褒められて、無表情だけど耳を真っ赤にしているエリが返事をする。
「かわいいよ、エリ!」
僕も褒めとこ!
「あたしのは、普段のドレスっぽさが残ってるッスね!」
エナの衣装は、水色のAラインワンピースで、切れ目から白のフリルがのぞいている。
エマとエリの飾りボタンは、首元から右斜めに付いていたけど、エナの飾りボタンは首元から胸元まで真っ直ぐだった。
左右の胸元の端っこに“吉祥結び”という飾りが付いている。
「エナのも似合ってるよ!」
「えへへ、ありがとうございますッス!王子!」
照れるように頭をかいて、返事をするエナが、お母様の侍女に“髪型が乱れる”とちょっと怒られていた。
「…先日の服に比べれば。」
深い紫色で金糸で刺繍されているチーパオを着ている魔王サマ。
衣装はエマのやつと似てるけど、袖が魔王サマの手先ぐらいしか見えないぐらい長いし、切れ目が腰から入っている。
あと、エマは履いてなかったけど、カンフーパンツ?と呼ばれる、裾が普段のズボンより膨らんでる、白色のズボンを履いてる。
「やっぱり丈が足りない…」
「手元だって、全部隠れるはずだったのに…」
お母様の侍女たちが、何やら悔しそうに呟いている。
魔王サマって、ほんと手足が長いんだなぁ!
その時、一人の侍女が、魔王サマの衣装を手直ししようとしたのか、近づこうとした瞬間――
「ぴゃっ?!」
何もないところで、コケた。
しかも、身体を支えようと腕を伸ばした先にあったのは、
――魔王サマのカンフーパンツだった。
ズボンが下がり、女性用の衣装みたくなってしまった魔王サマに、僕が慌てて声をかける。
「魔王サマ、下着履いてないんですか?!えっちすぎる!お母様、撮影機を貸してください!!」
衣装の切れ目が腰から入っているから、腰周りに見えるはずの下着が、見えないのである!
こうしてはいられない、早く撮らねば!
僕の言葉に、動揺する素振りを、まったく見せないお母様が、
「もう撮っています。」
と、おっしゃる。
お母様…僕よりも早く、状況確認をして、目線だけで侍女たちに、指示出しをしてるだなんて…!
――すごい…!尊敬しちゃう!!
「お母様、焼き回しを下さい!!」
僕の言葉に、頷きながら親指を立てて返事をしてくれるお母様。さすがすぎる!
コケちゃった侍女さんが、魔王サマにひたすら謝ってるのを横目に、僕の衣装お披露目なのです!
――というかコレ、
「お母様!また、僕の衣装を女性用で、用意しましたね!?」
どう見ても、女性用。
オフショルダーで膝上丈のワンピースに、ボレロ…より前がしまっている上着?
でもコレ、胸が大きい人だと、谷間見えちゃわない?
袖は、別に付ける様になってて、魔王サマの衣装みたいに手が隠れるタイプ。
あと「履きなさい。」と強く念押しされた、白のオーバーニーハイソックスを履いている。
「コレ、本当に民族衣装ですか?なんか…舞台衣装とかじゃないですか?」
無表情で分かりずらいが、満足気なお顔のお母様に聞いてみる。
「周辺諸国の方では、見世物小屋の娘が着るようですが……なにかの手違いだったのでしょう、
たまたま、衣装箱の隅に押し込められていたコレを見つけて、“ミオに着せねば”と思い、着せました。」
“着せねば”じゃないですけど!?
「もう!なんで、いつもいつも女性用を用意するのですか!」
「かわいい息子には、一等かわいらしい服を着せねばなりません。…法律でも決まっています。」
「そんな法律ないですけど!?」
ツッコミって大変なんだな…と途方に暮れる僕なのでした。
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