第3話 小山大惣を斬りし顛末

 博多小山町に小山大惣と云う姦商あり。藩士の俸禄を担保とし高利をもって貸金を営み、士人の彼に金子を借りらんと事を申し入れあるや、その応接の態度、傲慢不遜、憐みを乞うものに対するがごとし。いやしくも士人の態度をもって彼に臨めば冷然として一笑にふし、これを謝絶す。もし人の憤怒するあれば彼罵倒して曰く、「卿、無念なれば我首を斬れ」と。その傍若無人なる人誰か怨悪せざる者なし。また彼財冨あるにまかせ、米穀を独占買収し米価を騰貴せしめ、自己の利益を壟断(ろうだん・独占する)し、他を顧みざる悪徳をあえてしたりき。彼天誅組及び今中等に向かって無礼の行為を働きしかば、もはや許すべからずとて、ついにこれを斬る。


 ここに当時の顛末を記さんに、作兵衛まず彼が家に入り三兵衛、平蔵後に従う。伊丹その他は外にありて不慮に備ふ、作兵衛、大惣に語って曰く「過日の件をもって来訪す、願わくば今日承諾をあたえよ、金子は三兵衛持ち来たれり」と。彼は立ちながら答えて曰く「利子をつけせざれば諾するを得ず、他は語るに及ばず」と。作兵衛笑ってまず座せよと言えども、彼傲然として起立するも、談話に何の妨げがこれあらんと肯ざりき。作兵衛跪いて座せしむれば立膝す。なお正座すべき命ずれば、足を投げ出して軽侮(けいぶ・あなどる)その極みに達す。


 同志の士もはや許すべからずと作兵衛差添(さしぞえ・脇差)をもって彼が肩先より胸部に斬りさげ、平蔵続いて二の太刀を加え、瀬口ついに首を斬る。近隣に饅頭屋あり、その店頭にありたる水巾を持ち来たりて首を包み那珂川に至り、これを洗い去って大休山(おおやすみやま・今の福岡動植物園周辺)に赴き斬姦の宴を開く。宴終わって大土手に至り、野田家の垣竹を取り、梟首台を作り黒門に梟しその罪状を記して斬首の理由を告白す。(平蔵彼を斬りしに刀腮に掛り見苦しかりき)


【補足説明】

今中作兵衛 1837-1865  征長軍解兵に努力 桝小屋獄で斬 墓 大道寺

瀬口三兵衛 1837-1865 高杉晋作の世話をする、征長軍解兵に努力、桝小屋獄で斬

小藤平蔵  1839-1866 中村円太を脱獄させ脱藩、禁門の変に参加、奇兵隊に加わる。最後の但し書きは斬姦する時に刀が首ではなくあごに当たったという事か?


小山大惣  

元治元年(1864)7月20日 博多小山町の米屋惣右衛門、銀札相場を操作したことが恨まれたか侍7~8人から斬殺され黒門橋に梟首される。

(旧稀集・庄林半助)


※本文には詳しくは書かれていませんが、察するに筑前勤王党が小山大惣に借金をしていて、元本を返し、過日の件(おそらくは更なる多額の借金の依頼)を頼んだところ小山大惣に不遜な態度で断られて斬姦に及び、黒門に首を晒したのではないでしょうか。


















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