恋する乙女 | 三題噺Vol.5
冴月練
恋する乙女
📘 三題噺のお題(第5弾)
盗まれた記念写真
嘘をつく練習
朝と夜のあいだ
💡ヒント(構成の助けになれば):
盗まれた記念写真:実際に盗まれても、記憶の中で“消された”という比喩でも使えます。
嘘をつく練習:演技、弁解、心の防衛。誰に、何のために嘘をつくのかを問う切り口になります。
朝と夜のあいだ:時間帯の曖昧さが、現実と幻想、理性と衝動の境界を表現できます。
――――――――――――――――――
【本文】
無表情。
ポーカーフェイス。
子供の頃からよく言われた。
俺は表情が顔に出ないらしい。
だが、家族や付き合いの長い友達は、別のことを言う。
「
何なのだろう? この違いは。
思うに、俺は芝居をする必要がなかったから、芝居が下手なのだ。だから、親しいヤツらにはすぐに見破られる。
問題は、これから来るヤツは、どちら側の人間かということだ。
俺はあくびをした。徹夜ってしんどいんだな。初体験だ。体がだるい。
教室の時計を見た。そろそろ来る頃だと思うのだが……。遠くの空が白んできた。夜が終わろうとしている。
教室のドアが動いた。予想通りだ。
キョロキョロと辺りを見回しているが、闇に溶け込む俺には気づいていない。
制服と髪型から女だと判断した。これも予想通り。
彼女は教室後ろの掲示板に、何かを画鋲で貼り付けようとしている。何かというか、昨日の放課後に行方不明になった記念写真だ。
皆で、「校外学習の記念写真が盗まれた」と放課後に騒いだ。
俺は盗まれたのではなく、一時拝借されたのだろうと推理した。犯人の目星も何人かつけていた。
掲示板でもたもたしている彼女を見て、犯人がわかった。身長、髪型、体つき。
俺の幼馴染みで、俺の中の最有力容疑者。
「何してんだ、早乙女?」
俺は闇から姿を現した。早乙女が小さく悲鳴を上げる。
早乙女は俺だとわかると、少しだけ安心したようだ。
「凪くん、何でこんなところにいるの?」
「写真泥棒を捕まえにね」
俺はニッと笑った。
一花は言い訳できないと悟り、視線を泳がせている。
「何で、こんなことしたんだ?」
俺の質問に、一花はうつむいて動かなくなった。
昔からそうだ。一花は困ると無言の抵抗をする。
「写真が欲しければ、何円だか払えばもらえただろ? 盗んで騒ぎ起こす必要なんてないだろ?」
「盗んでないよ。用が済んだら返すつもりだった。今、返しに来てるでしょ?」
「そういう問題じゃないだろ? 昨日の放課後、皆で探しまわったんだから。迷惑考えろよ」
「だって……こうしないと、バレちゃうし」
一花は子供のように拗ねている。
「お前が本当に欲しかった写真は、一つか二つなんだろ? それ以外はカモフラージュだ」
一花の表情が変わる。やはり図星か。
俺は掲示板に近づくと、スマホのライトで写真を照らした。
その写真には、俺と一花だけが写っていた。
「欲しかったんだもん。でも、皆には知られたくなくて……」
なんだか一花は幼児化していた。
上目づかいで俺を見てくる。俺が一花をどう思っているか聞かせろ、という意味だろう。
俺は一花に近づくと、抱きしめた。一花は最初驚いたようだが、抱きつき返してきた。
こうして俺は、一花と彼氏彼女になった。
一花の性格は熟知している。俺のことを好きだけど、素直になれないことも。
だから追い詰めて、本音を引き出した。
まさか校外学習の記念写真一枚で、ここまで予想通りの動きをしてくれるとは。
俺は自分の才能がちょっと怖い。
それからしばらくして、俺と一花は身体の関係を持つようになった。
行為の後、一花がクスクス笑い出した。
「何だよ?」
「いや~、まさか写真一枚で、こんな簡単に凪を彼氏にできるなんて思わなかったな。凪ってすぐ顔に出るし、単純だからホント読みやすい。でも、世の中には私と違って悪い人もいっぱいいるから、嘘をつく練習もしたほうが良いんじゃないかな」
そう言って、一花は心配そうに俺を見た。
――――――――――――――――――
【感想】
お題を見ても何も思いつかず、寝る前にスマホで何となく書いたお話です。思いつくままに指を滑らせていたら、何とか終わりまで書けました。
面白いのか疑問だったけど、読み返してみたら思ったよりも悪くないと感じています。
論理的なツッコミをされたら困るけど、落ちもついたし、物語にはなったと思っています。
恋する乙女 | 三題噺Vol.5 冴月練 @satsuki_ren
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