私生活に爆轟を求めるのは間違ってるだろうか?(間違い過ぎだ!) 7
~その後、日葵やアサヒ達は誠司の自宅にお邪魔した~
「アキ……アキ……ぐす……」
「それで、この子はいつになったら、俺から離れてくれるんだ?」
ボロアパートの一室に座り、地味に不本意な苦笑いを浮かべながら尋ねる誠司に、アサヒは肩をすくめ、日葵は笑って誤魔化していた。
きっと、それが答えなのだろう。
「……まぁ、そこは後回しにしようか」
吐息交じりに答えた誠司は、額に手を当ててから声を吐き出した。
少し根負けした、諦め加減の声音だった。
「この子の素性と事情を教えて貰おうか」
「そうだな。パパッと簡素に言おう。彼女は異世界人だ」
「異世界人?」
何の冗談だ?
アサヒの言葉に、誠司は目を丸くする。
眉唾な話をするにしても、もう少しマシな寝言が言えなかったのだろうか?
そうと真剣に思う誠司がいたのだが、答えた当人は元より日葵も真面目な顔をしていた。
「嘘みたいな話をしてるのは百も承知なのですが」
そうと答えた日葵は、自分の人差し指を立てた。
次の瞬間――
ボッ!
――と、彼女の人差し指から小さな火が灯った。
「こんな感じで、魔法がある世界から彼らは来てます。こんな事、常人では出来ませんよね?」
「そう言うアンタもな?」
「いえいえ、私は極々普通の一般人です」
なら、その人差し指から出て来た火は何だよとツッコミたくなる誠司がいた。
反面、彼女が言わんとする意味はなんとなく理解出来た。
確かに右手の人差し指から火を出せる人間なんて居ない。
ついでに言うのなら、だ?
「俺も似た様な事が出来るぞ?」
答えた誠司も、日葵を真似する形で人差し指から火を出してみせる。
「わぁお……やっぱりあなたも普通の人じゃないんだね」
「アンタに言われたくないんだが……?」
驚く日葵に、誠司は呆れ眼で返答していた。
事実、同じ事をしている相手に『普通じゃない』なんぞと言う、人外宣言めいた言葉を言われたくない。
「なるほどな」
他方、誠司も人差し指から火を出した所を見て、アサヒは納得加減の声音を口から吐き出す。
「どうやら、アンタで間違いはなさそうだ」
「人違いではない……とでも?」
微妙に不満気な態度で尋ねる誠司に、アサヒは素早く相づちだけ打ってみせた。
「勘弁してくれ……」
誠司はげんなりした顔で言う。
彼からすればたまったモノではない。
「まぁまぁ……あんたの気持ちは分かる。ずっとこの世界で生きて来たワケだし。異世界とか言われても困るよな?」
「そう言う事だ」
だからサッサと帰って欲しい。
そう言い掛けていた所で、アリンの声がみんなの耳に転がって来た。
「そうか! 輪廻を通っているから、記憶がないのか!」
声高に叫ぶ形で言い放ったアリン。
ハッ! と気付いた顔だ。
そこから間もなく、アリンは日葵へと視線を向けた。
相変わらず、身体は誠司に引っ付いたままであったが。
「――おい、大魔導。これでも私はお前と違い、魔導全般に強いワケではない」
「私もそうだけど?」
アリンに言われた日葵は、キョトンとした顔で言う。
ハッキリ言って、魔法と言う概念を知ったのもつい先日の話だ。
そんな状態で、魔導全般に強い存在になれるワケがない。
だが、アリンは強い意志を持って日葵に言う。
「そんな事はない。私だって理由もなくお前を探していたワケじゃないんだ」
「そう言われてもねぇ……」
確信を持って答えているのだろうアリンに、日葵は両腕を汲みながら声を返した。
心情的にはなんとかしてあげたい。
日葵へと答えているアリンの顔は、まるで迷子になった子供であったからだ。
親とはぐれ、寂しくて心細くて泣きべそを掻く寸前になってる幼子のようである。
大の大人が見せる顔ではない。
……本来なら。
「……やれやれ」
日葵は天を仰ぐ。
まるで悪者になった気分だ。
少し間を置いてから、日葵はアリンへと尋ねてみせる。
「そもそも、私に何をさせたいのよ?」
「記憶だ。一部で良い。私とアキィが一緒に生きた時の記憶を、今のアキに与えてくれないか?」
「………はぁ?」
切実に語るアリンの申し出に、日葵は唖然となった。
直後、日葵は首を何度も横に振った。
「無理無理! そんなの出来っこな……い?」
しかし、叫んだ日葵の語尾辺りでは、何故か疑問形に変わっていた。
……なんでか?
記憶を取り戻したいとか無理な事を――と、頭の中で思い浮かべた瞬間、魔導式が頭の中に浮かんで来たのだ。
「…………」
日葵は無言になった。
顔も地味に固まっている。
そこからしばらくして、日葵は冷や汗交じりに言った。
「……今からおかしな事を言うよ?」
神妙な顔で日葵は口を動かす。
その姿を見てアサヒは一定の検討が付いたのか『ああ、そうなる』っぽい顔をし、アリンは期待に満ちた顔を作り、誠司は頭にハテナを浮かべていた。
それぞれ三者三様の態度を見せる中、日葵は言った。
「記憶をピンポイントで復活させると言うか……誠司さんの脳を痛めない程度に記憶を入れる事なら出来るね」
「――っ⁉」
困惑交じりに冷や汗を流しながら言う日葵を前に、誠司の顔が真っ青になった。
良く分からないが、かなり自分にとって危険なワードが点在していたからだ。
「ちょっと待ってくれ? それは……あれか? 俺の脳に直接、ありもしない記憶を入れると言うか、叩き込む感じか?」
滅茶苦茶だ!
そう胸中で叫び、誠司は蒼白のまま日葵に尋ねた。
すると、日葵は言う。
「ちょっと違うね? 元・あなたの記憶を今のあなたに『移植する』だけの話。他人の記憶だった場合は、例え私でも無理。あなたの脳が受け付けない」
「じゃあ、脳を痛めない程度……とか言うのは?」
恐々となり、地味に口を震わせて尋ねた誠司を前に、日葵は努めて柔和な態度で――でも、何処かおかしな笑い方をして答えた。
「例えあなたの記憶で、脳が適合したとしても、一気に記憶を入れられたら情報量が多過ぎてパンクするんだよ――ボンッ! と」
直後、誠司は逃げ出そうとした。
しかし、しがみ付いて離れないアリンにがっちり抑えられて、逃げる事が出来なかった。
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