私生活に爆轟を求めるのは間違ってるだろうか?(間違い過ぎだ!) 6

 ドアを開けた先に居たのは――


「どなた様で?」

「アキ! 会いたかった」


 ――誰なのか分からない女性だった。


「っ⁉」 


 誠司はポカンと口を開けてしまった。


 今の彼が分かる事は、ドアを開けた先に銀髪の女性が居た事と、突然抱きつかれた事。

 それだけだった。


「あ、あのぅ……人違いでは?」


 誠司は苦笑交じりに答えた。

 一方的に抱きつかれてしまい、離れて欲しいと言う言葉を遠回しに述べているつもりだった。


 しかし、彼女は全く離れようとしない。

 そればかりか、より『何か』を確信したかのようだ。


「この匂い――エナジー。魔力を含めた全部が全部、懐かしい……ぐすっ」


 最後には鼻を鳴らしていた。

 誠司の胸に顔を埋めていたので表情は良く分からないが、泣いている可能性が高かった。


 誠司は困った顔を作る。


 率直に言って、感涙されるいわれはない。


「一体、あなたは誰と勘違いしてるんだ? 俺の名前は秋田誠司って言うんだけど」

「ああ、分かってる……分かるぞ、アキ!」


 誠司の言葉に、銀髪の女性は声を大きく張り上げて肯定していた。

 尤も、誠司を『アキ』と呼称している時点で、本当に分かっているのか怪しいのだが。


「あー…っと、アキさんとやらが、この近くに住んでるのかな?」

「ああ、目の前に居る。今、私が掴んでる……もう、離さない」

 

 確実に人違いをしている事だけは分かった為、それとなく事情を聞こうとしたが、話のベクトルは一向に誠司の予測とは違う方向へと進んでしまう。


 内心で思った。

 こいつは駄目だ。


 もしかしたら、彼女はおかしな薬でも服用しているのではないだろうか?

 それも、かなり頭のネジがぶっ飛んでしまう、とびきり危険な代物を。


「えぇと、だ? 取り敢えず近くに交番があるから、そこに行かないか?」


 誠司は口元をヒクヒクさせながら、銀髪ツインテールの女性へと促しの文句を口にした。


「すいません! お巡りさんだけは勘弁して下さい! この人、ちょっとアレがアレしてるだけなんで!」


 直後、予想もしない方向から女性の声がした。


 見る限り、十代後半程度の少女……と、言った所だろうか?

 そうと、誠司は見積もった。


 見ると、その近くにはやたらガタイの良い、褐色の男まで居た。

 こちらは二十代後半程度。

 如何にも腕っぷしの強そうな男だった。


「あんたらは誰だよ」


 誠司は額に冷や汗を流しながら言う。

 内心では、かなり混乱していた。


 当然と言えば当然だった。


 変な女に抱きつかれたと思えば、今度は謎の少女と褐色肌の男と来た。

 驚きの連続に、誠司は眩暈すら覚えた。


「前触れなくアンタのトコに来たのは……まぁ、すまん。そこは悪いと思ってるんだが――今回だけは目を瞑ってくれ。頼む」


 額に手を当てる誠司が居た所で、体格の良い男が素早く頭を下げて来た。

 パッと見る限りは、物腰が柔らかい。


 なにより『一番まとも』そうだ。


「これは一体、どう言う事なんだ?」

「そうだよな? アンタからすればそうなる。うん、ごもっとも」


 困惑した口調で説明を求めた誠司に、男は何度も頷きを返した。


「事情はちゃんと話す。だからアンタもそこまで警戒しないでくれ。まず真っ先に言える事は、俺達はアンタの敵対者には『ほぼ』ならない」

「…………」


 ニッと笑って言う男の言葉に、誠司は眉を顰めた。

 地味に気になる言い回しだ。


 ほぼ敵ではない。

 つまり、確実ではない。


 しかし、割合から言うのであれば――


「まだ、敵にはならない……いや、味方だと言いたいのか?」


 誠司は言う。

 何を以て『敵』だの『味方』だのと言ってるのか分からないが、自分が持っている警戒を解いて欲しい意志から来ている事だけは理解した。


 まだ完全に懐疑の念が霧散する事はないが、話程度なら聞いても良いだろう。


「そうだな。少なからずその認識で間違いない。俺もアンタを敵に回す事の危険は理解してるつもりさ――っと」


 そこまで言うと、男は近くにいた少女を親指で軽く示してから、再び口を開く。


「まずは自己紹介だ。このちんちくりんな女は山形日葵。こんな見てくれだが二十五――」


 そこまで言った所で少女――日葵の右アッパーが男の顎にクリティカルヒットした。


「歳までバラすんぢゃねーよ! こっちは二十歳の設定で行こうとしてたのに!」


 日葵は憤然と捲し立てた。


 二十歳の設定とか言ってる時点でおかしい事を、彼女は気付かないのだろうか?

 そうと誠司は内心でのみぼやいたが、口にする事はなかった。

 何故なら、口にする事で彼女の怒りを無駄に買いそうだったからだ。


 口は禍の元。

 余計な事は言わないに限る。


「痛てて……んで、俺の名前がアサヒ・ソレイユ=サンライズベース。アンタに抱きついて離れないタコもどきが、アリン・ドーンテンだ」


 男――アサヒは、日葵に打ち抜かれた顎の部分を軽く右手で摩りながら言う。


「私はここに居る二人と違って、昔から近所に住んでる一般人です。だからお巡りさんを召喚する時は私の名前を出さないで下さい」

  

 程なくして日葵は、友好的に微笑みながら責任逃れの口上を垂れる。


 誠司としては『アンタも十分大概なんだが?』と言ってやりたい気持ちで一杯になっていた。


 しかし、現状で誠司が知りたい物は、大概な態度と口上を示す日葵の考えではない。


「それで、アンタ達がココに来た理由と言うか、事情を話してくれないか?」


 言ってから、未だ離れないアリンを指差し――


「この子よりは話が分かると思うからさ……」

 

 そうと答えた誠司は、心底疲れた顔をしていた。

 きっと、元から仕事で疲れていたのだろう。

 地味に同情してしまいたくなる顔付きだった。

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