第一章 Re:ゼロから始める生活資金(金ねーんぢゃぁぁぁっ!) 4
「おいおい、日葵さんよぉ……今の魔法はどんな魔導式を組み立てたんだ?」
「へ? ん~とぉ……」
口元を引き攣らせながら尋ねるアサヒに、日葵は少し考える仕草をしてから、近くにある小石を拾い、魔導式を書いてみせた。
「…………」
アサヒは絶句した。
見た事も聞いた事もない魔導式だった。
なんじゃこりゃぁぁっ!!……とか、本気で言いたくなる。
「この魔導式は、どこで覚えたのかな?」
参考までに聞いてみる。
「ん? 覚えたって言うか? 頭の中で『爆発しろや!』とか思ったら、浮かんで来た」
「…………」
アサヒ、二度絶句。
大魔導の才能に恐怖すら抱いてしまった。
「ちな、発動した時に魔法の名前が頭に浮かんでたよ?『天地爆砕魔法――カタクリズム・ボム』だったかな?」
思い出す感じで言う日葵。
尚、
……そう。
誰も使えないのだ。
古い魔道言語を使用している為、魔導式に変換する事が極めて困難だからだ。
ただ、威力はとてつもないと言う事だけは文献に記されている。
発動すれば、世界を揺るがす超爆発が起こるらしい。
「あのぅ……日葵さん?」
アサヒは言った。
心成しか、とっても優しい声だ。
「ん? どうしたの自称剣聖?」
「出来れば、ふつ~に爆破魔法を使っては頂けないでしょうか?」
不思議そうな日葵の言葉に、アサヒはかなりへりくだった言葉を返した。
この時、アサヒは思ったのだ。
こんな馬鹿みたいな古代魔法とかをツッコミに喰らったら、マジで死ねるわ!
割と本気で命に関わると思ったアサヒは、誰からみても
「…………」
日葵の目が半眼になる。
コイツは何をそんなに怖がっていると言うのか?
事情は今一つ分からなかったが、日葵は笑みを交えて答える。
「良く分からないけど、分かった。そこは安心して」
本気で頭に来たら分からないけど。
……と、心の中で付け足して。
「そ、そうか……それでマジ頼む!」
だから、俺にツッコミで爆破魔法を使うのだけはやめてくれ!
――そうと、お空のお星さまに懇願しつつ、二人は今度こそダンジョンの奥へと進んで行くのだった。
~十分後~
ダンジョンの通路を進んで行くと、鍾乳洞の様なエリアにぶつかった。
視野が広くなり、周囲を見渡せる程度の空間がある。
「ほぇ~。あたしんチ……マジでダンジョン過ぎて泣けるんですけど」
辺りを軽く見渡しながら、日葵はまたも半べそになる。
目は見事に遠くを見つめていた。
その先に明日があるのか怪しい。
「取り敢えず今日の目標は、ここのモンスターを数匹倒しておしまいにしようか」
「あ~ね」
アサヒの言葉に、日葵は気のない言葉をテキトーに吐き出した。
私はやる気がありませんと、首から看板でも下げている様な態度も、もれなくセットで付いて来た。
「やれやれ……」
アサヒは吐息交じりだ。
巻き込んでしまったのは自分達であると言う自負もあれば、多少の自責も感じている為、あまりこんな事は言いたくないのだが――。
「そんな、腑抜けた面してると、アッと言う間に死ぬぞ?」
「………へ?」
アサヒの言葉に、日葵はポカンとなった。
理由は簡素な物だ。
「アンタが守ってくれるんじゃなかったの?」
「もちろんそのつもりだが、完全無欠とまでは無理だろうよ」
つまり、少しは自力で自分を守る必要がある訳だ。
「ちょっ……そんなの聞いてないんですけど⁉」
「当然だ。言ってないからな?」
非難がましい喚きを入れた日葵に、アサヒがしれっと言い返した。
彼の顔が一気に引き締まったのは、ここから数秒後の事だった。
「来るぞ日葵。ゴブランが居る……距離はここから二百五十メートル」
「ゴブラン?」
アサヒの言葉を耳にした日葵は、軽く眉を捩ってみせた。
程なくして、小首を傾げながら尋ねた。
「ゴブリンではなく?」
「同じ『スクライカー』と言う意味では同類だが、俺が言ってるゴブランは鉱山とかにいる悪い妖精を差しているぞ?」
どうやら、少し種族が違うらしい。
恐らく、同じネコ科でも色々な動物がいる様に、モンスターの世界にも色々な種類のモンスターがいるのだろう。多分。
「こっちに近付いて来てる――そろそろ日葵の目でも見える所まで来てるぞ?」
「その言い方だと、アンタには最初から見えてるように聞こえるんだけど?」
「あたぼうよ。俺の視力なら地平線の豆粒すらしっかり見えるぜ!」
アサヒは、答えてGJして見せる。
快活に『ニッ!』と笑う事で緩んだ口元から『キラン☆』と、白い歯が光っていた。
日葵の目がミミズになった。
どうも、剣聖様が得意気になるとイライラしてしまう。
感覚的に言うと、スタバでマックブック開いてコーヒー飲んでるヤツを見ている時と似ていた。
「あんたの視力がマサイ族も裸足で逃げ出すレベルだと言う事だけは分かった」
「良く分からないが、褒め言葉として受け取っておくぜ!」
嘯き加減の例え話を出だした日葵に、それでも自信満々に親指を立てるアサヒの姿があった。
やっぱりイライラするのは何故だろう?
そんな事を胸中でのみぼやいていると、前方の方から小人を大きくした様な者が歩いて来るのが分かった。
実に醜悪な顔だ。
まさにモンスターと言える。
「いいか? 奴らはまだコッチに気付いていない。今の内に爆破魔法で倒せ」
「え? 剣聖様がバッサリやるんじゃなくて?」
「それじゃ、魔法の練習にならないだろう?」
アサヒの言葉を聞いて、日葵は一応の納得をしてみせる。
どうやら、日葵の事を配慮しての行為らしい。
それならば――と、日葵は数十メートルまで近付いて来た、全長数十センチ程度の醜悪な顔をした小人もどきに右手で標準を合わせた。
「それ行け!」
ドォォォォォォンッッ!
強烈な轟音と共に、小人もどきは瞬時に爆散した。
とんでもない威力だった。
「お~! イイ感じに爆発したね~? ようやくコツを掴んで来たよ!」
日葵はしてやったりと言わんばかりだ。
見れば、数体ばかりいたであろうゴブランの群れは、日葵の爆破魔法によって一匹残らず木っ端微塵になっていた。
大魔導の頭角を、早くも曝け出す形となった。
きっと、これでもまだ元来の大魔導としての実力ではないのだろう。
「そう考えると、末恐ろしいな」
アサヒは、ドン引きする感じで独り言ちた。
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