1-6 ハコンダテの危機(side:フォーダ)

 少し時は遡り、マリウス達が野盗のアジトと目される場所に出発した頃––––。


「あの二人が付いているとは言え、ご無事だといいんですけど…ううん、マリウス様ならきっと大丈夫よね?」


 フォーダは一人自室でマリウス達の武運を祈っていた。多少の不安はあっても、彼らを信じて待つだけだ。


 ぼんやりと窓の外を見やると、なんだか外が騒がしいようだ。日が落ちた後はいつもなら静かな時間にも関わらず、兵達が俄かに騒いでおりフォーダは嫌な胸騒ぎがした。


 

 ドンドンドンドンドン–––––––!!



 フォーダの嫌な予感は的中する。敵襲を知らせる銅鑼の音が城内にけたたましく鳴り響く。


 フォーダはすぐに戦闘用の身軽な服に着替え、革の鎧と細身の剣を身に付けて父の元へと向かった。


「おやかた様!海賊達が現れました––––その数、およそ二千!!」


 父の居る執務室に辿り着いた時、ちょうど伝令役の兵士が状況の報告に飛び込んで来た。


「海賊どもめ、今回は規模が違うな…。今までの攻撃は油断させるためだったのか?対する我々は兵一千ほど––––いくら奴らが寄せ集めの集団とは言え、正直厳しいな…」


 フォーダの父は戦力差を鑑みて少しだけ悩む素振りを見せたがすぐに気を取り直し、伝令に対し矢継ぎ早に指示を出す。


「兵達はすぐに戦の準備を!文官たちは民の避難誘導をさせろ!それとオズマの傭兵隊に向けて救援依頼の狼煙を上げよ!」

「ははっ、ただちに!」


 領主の命を聞き、伝令は急いで部屋を飛び出して行った。室内に残るのはフォーダ達親子二人。


「さてフォーダ–––––お主はすぐに逃げよ」

「嫌です……私も皆と戦います!」

「ならぬ!お前は城を出てマリウス殿たちの元へ向かうのだ。合流した後も城を救おうなどと考えるな…生き延びる事だけを考えよ」

「そんな…私も民の為に死ぬ覚悟は出来ております!それなのにどうして––––」


 フォーダは尚も父に食い下がろうとしたが、父の予想外の行動に面食らってしまう。父に優しく抱き締められたのだ––––。


「分かってくれとは言わぬ。だがお前が生き延びてさえくれれば、いつかはこの地を取り戻せる日も訪れるであろう」

「そ、それならお父様も!」

「それは出来んのだ。領主たる儂が居なくなれば、士気は地に落ち領民を守る事すら叶わなくなる。亡き妻––––お主の母に約束したのだ。この地を守り抜き、フォーダの事は儂が必ず守るとな」

「––––––––––っっ!」

「なぁに、そう簡単にこの城が落ちはせん。オズマが援軍に駆け付けてくれれば、なんとかなる…だから行け、フォーダ。達者でな––––––」

「お父様…どうかご武運を」


 部屋を後にしたフォーダは涙を堪えながら、急いで厩舎に繋がれている自身の愛馬の元に向かった。


 全身が真っ白の白馬…周りからは天からフォーダが乗る為に遣わした“天馬”と呼ばれていた。


 ヒラリと馬の背に乗ったフォーダは、マリウス達の元に向かった。しかし父の言い付けに従ったわけではなかった。


(ごめんなさい、お父様。私は初めて言い付けを破ります––––マリウス様…アベイルとカイも連れて必ず助けに戻ります。それまでどうか、どうかご無事で…!)


 悲痛な表情で馬を走らせる。一刻でも早く助けに戻らないと…その気持ちがフォーダを焦らせる。


 愛する故郷に民、そして父を失いたくない…フォーダのそんな願いも虚しく、ハコンダテの町では既に海賊との熾烈しれつな戦いが始まっており、徐々に戦火は広がって行った–––––。


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[あとがき]

 ここまでお読みいただき、ありがとうございます!


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