第45話 真夏の戦い その7

 14時まで海で遊んだあと、オレ達はシュナイツ家所有の別荘に訪れた。正確にいうと、ルークたちの叔父の別荘である。


 その別荘は西洋風の屋敷であり、築年数はそれほど経っていないように見える。

 中に入ると、いきなり大きなシャンデリアが姿を見せ、オレたちを唖然とさせた。


 ……金はある所にはあるんだな。


「じゃあ、夕方のバーベキューまで自由時間にしよう。部屋割りは決めてあるよ」


 ルークがそう言うと、オレ達はそれぞれの部屋まで案内される。


 オレの部屋は窓から海が見える好立地だった。しばらくは窓を開けておこうか。

 荷物を置き、ベッドに腰掛けると、オレはスマホをポケットから取り出す。


 画面を見ると、後輩からメッセージが届いていることに気づく。


『30分後、最寄りのコンビニに集合で』


 ***


 30分後、最寄りのコンビニに出向くと、そこには後輩の姿があった。


「それで何するんだ?」

「そうですね〜。近くのお店でも回りましょうか。ここら辺はリゾート地なので、暇つぶしには困りません」


 そうしてオレ達は出発する。

 そして目に入ったゲームセンターに入った。


「くそ! そこでゴール直前で甲羅は正確悪すぎだろ!」

「ふふ〜ん、先輩、切り札っていうのは最後の最後まで隠しておくものですよ」


 後輩とレースゲーム。

 あれ、いつもと変わらないような……。


 結局、オレ達はゲームセンターを満喫した。


 ***


 ゲームセンターからの帰り道。

 オレたちは波の音を聞きながら海沿いを歩く。

 時刻は既に夕方であり、バーベキューを始める約束の時間は過ぎていた。

 ……ゲームに熱中し過ぎた。


「ふふふ〜ん」


 しかし、後輩はのんきに鼻歌を奏でている。


「楽しそうだな」

「はい、楽しいですよ。先輩は楽しくないんですか?」

「オレか? オレは……多分楽しい」

「何ですかその歯切れの悪い答えは。このあたしとデートしてるんですよ?」

「お前とはほば毎日デートしてるからなんとも思わんな」

「確かにそうかもですね」


 納得する後輩。

 しかし首を傾げる。


「それにしてもあたし達の関係ってなんなんでしょうね」

「オレにとっては友人の妹で、お前にとっては兄の友人だろ?」

「そんな関係の人たちが毎日デートなんてしますかね?」

「しないかもな」


 そう考えるとオレ達は不思議な関係だ。

 オレと後輩が出会って2ヶ月ちょっとが経つ。


 けれど、その関係の深さはもはや『親友』と言っても差し支えのないものになってきている。

 一緒にいて、安心する。

 オレは、後輩とのそんな関係をなんだかんだ言って気に入っているのだ。


 後輩には絶対に言う気はないが、この関係を今後も大切にしてしていきたいと思う。


「……」

「……」


 どれくらい沈黙が続いただろうか。

 後輩とはそんな時間ですら心地よく感じてしまう。


 やはりオレにとって後輩は、かけがえのない親友──


「付き合っちゃいますか。あたし達」


 しばらくの間、波の音だけしか聞こえなかった。


「え、」


 若干のタイムラグが生じた。

 しかしオレはすぐに頭をフル回転させて考える。


 いつもの小悪魔的な揶揄いだろうか。

 ならば、ここはいつも通り、良いリアクションして揶揄われるのが正解だ。


 けれど、後輩を見ると、その頬は赤く染まっている。

 夕日のせいだと解釈もできるが、そらにしても赤すぎる。


「……」


 諸行無常。

 この世には変わらないものはない。


 ここは、オレと後輩の関係が変わる重要な『分岐点』なのかもしれない。

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