第43話 真夏の戦い その5

 

 旅行中に、ミナと仲直りすること。

 元々仲が良かったかと聞かれれば、微妙なところだが、そんな目的がオレにはある。


 初めに言っておく。

 正直なところ、オレはどうしてもミナと仲直りしたい訳ではない。

 世の中全ての人間と仲良くなれる訳ではない。

 親しくできる人もいれば、そうでない人もいる。

 ミナはオレにとって、親しくできない側の人間だった。

 ただそれだけの話なのだ。

 それだけの話のために、オレはいちいち行動しようとは思わない。


 けれど、ミナは友人であるルークの妹であり、何よりルーク自身がオレたちの仲直りを望んでいる。


 ──友人のために。


 オレにとって、それは行動するに足りる理由なのだ。


 ***


 海から上がり、オレは設営されているトイレに向かった。


「──あの!」

「?」


 その道中に、声をかけられる。

 振り返ると、そこにはミナがいた。


「……っ」


 声をかけてから、ミナはなにやらモジモジしている。


「何か用か?」


 そう尋ねると、ミナは余計にモジモジする。


 すると、意を決したようにミナは言った。


「少し、抜け出しませんか?」


 その証拠に、以前はワントーン高かった声が、真剣な地声だった。


 ***


 人が多くいる所から、少し離れた場所にオレたちは移動した。

 遠くから、ビーチの騒がしい様子が聞こえてくるが、この辺りは人がいないせいか静かな所だ。


 そんな場所でミナはオレに頭を下げた。


「この前は申し訳ありませんでした!」

「え、」

「私の勝手な都合で、夜さんに不快な思いをさせてしまいました。だから、本当に申し訳ありませんでした!」

「……」


 オレは思わず目を見開いた。

 まるで別人だ。

 以前は男に媚びる軽い女に見えたが、今はそんな風には全く見えない。


「顔を、上げてくれ」


 ミナが顔を上げると、オレも頭を下げた。


「オレも、冷たい態度をとってすまなかった!」

「え、え⁉︎」


 困惑するミナ。

 オレも謝りたい気分になったのだから仕方がないのだ。


 厨二くさい自分の思想を披露したたが、なんだかんだで、やっぱり最後に人を動かすのは『感情』だと思う。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る