第34話 ミナ・シュナイツ その4


 昔から、親族や近所の人、学校や習い事の先生からよく言われることがある。


 ──お姉ちゃんに似て可愛いね。


 私には2つ上の姉がいる。

 姉はとても社交的な人で、いつも皆んなの注目の的だった。

 何かに成功しても、失敗しても、姉の周りにはいつも人がいる。

 私は、そんな姉の模倣品だった。

 姉が歩んだ道を歩き、姉がした事を真似て、姉が描いた軌跡をただなぞる。

 そして出来上がったのが、姉の劣化版である今の私。


 姉なら、きっと万人に好かれる人になっていた。

 姉なら、きっと私のようにずるいことをしなくても、うまくやれていた。

 姉なら、きっと自分のことを嫌いになんてならなかった。


 そんな姉にずっと劣等感を抱き続けてきたからかもしれない。

 特に具体的な出来事はないけれど、いつしか私は姉のことが嫌いになっていた。


 きっと、姉が私だったら、そんなに醜いことなんて思わないで、仲の良い姉妹でいられたんだと思う。


 ***


 3人で並んでお昼ご飯を食べていると、善光寺さんが言う。


「シュナイツさんって、もしかしてお姉さんがいませんか?」

「……っ」


 善光寺さんの口から姉の話が出てきて驚いた。


「いるよ。……2つ上のお姉ちゃんが」

「やっぱり!」


 善光寺さんは両手を合わせる。


「レナさんの妹さんなんですね」

「……」


 姉とは全く関わりのないこの中学校でも姉の名前が出てくる。

 ……それがとても気に入らない。


「レナねぇと知り合いなの?」

「えぇ、」


 善光寺さんは天峰さんを見て言う。


「レナさんは朝ちゃんのお兄さんの後輩さんなんです」

「──え、」


 待って。

 天峰さんのお兄さんの後輩が、レナねぇ?

 それってつまり──


「天峰さんのお兄さんって、夜さん⁉︎」


 私がそう口にすると、天峰さんは露骨に嫌な顔をした。


「へぇー、お兄さんを知っているんですね」


 一方で、善光寺さんは私に笑顔を向けてくる。


「仲がよろしいんですか?」


 そんな善光寺さんの雰囲気は、さっきまでとは少し違う気がした。


 ……仲がよろしいも何も、この前、誘惑しようして、拒絶された関係、だなんて言えない。


「う、うちに遊びに来てたときに、一回会っただけかな」

「そうなんですね」


 それから、善光寺さんの笑顔が元に戻ったような気がした。


「……」


 ……まさか天峰さんが、夜さんの妹だったなんて。


 まずい。私が夜さんにした事を知られてしまう。

 もしかすると、もう夜さんから聞いているかもしれない。


 そう考えると、心臓の鼓動が速まる。


 それから、私は、天峰さんの顔を見ることはできなかった。

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