身代わりの生け贄
「……アカトミ様、今度の生け贄が可愛い女の子じゃなくても許してくれるんだろうか」
村のはずれにある神様の社を掃除しながらコウは独り言ちる。
社といっても簡易的な掘っ立て小屋のようなものだ。
雨風はしのげるだろうが、人が長く暮らすには困難が伴うだろうというような粗末な小屋だった。
コウ以外の村人は祭りの時以外はここに立ち寄ることはない。
みなしごのコウが村長の家に居候している恩を返すために、清掃を買って出たのだ。
毎日社を掃除し、神様へのお供えも定期的に交換している。
『アカトミ様』というのはコウが勝手に神様に付けた愛称だ。
コウにはほかの村人と同じく学がない。
だから、祭りの際、村の長老が唱える祝詞に出てくる長くて複雑な名前を理解しているわけではない。
それでも聞き取れた音からこの村の神様のことを、『アカトミ様』と呼んでいるのだ。
「コウ!やっぱりここにいたのね」
遠くから声が飛んでくる。
「お父様から聞いたわ。私の代わりに神様の生け贄に手を挙げてくれたのね」
声の主は村長の娘のツバキであった。
年の頃は16~18くらいだろうか。
長い艶やかな黒髪に白雪のように透き通った肌、椿の花のように赤い唇をした、美しい少女だった。
コウのもとに駆け寄ってきたツバキは、涙目になってコウを抱きしめる。
「ツバキ姉さまはもうすぐ婚礼を控えていますし……。それにみなしごのオレにできるのは、このくらいしかないから……」
「コウ……」
俯いてしゅんとするコウ。
そんなコウの頭をツバキはよしよしと撫でる。
「私のせいであなたに重荷を背負わせることになってしまって……、本当にごめんなさい」
「いいえ! ツバキ姉さまのせいではありません! オレがそうして欲しいと言ったのです! だから……、だから、誰も悪くないのです」
力強く否定はしたものの、最後は消え入るような声音だった。
コウとて生け贄になることに恐怖心がないわけではない。
ただ、彼は、血のつながらない自分に対して本当の弟のように接してくれた最愛のツバキの幸せだけを願って生け贄になることを了承したのだ。
「この村にこんな因習なんかなければよかったのです。ツバキ姉さまは、ただ巻き込まれただけだから……」
「そうだとしても、あなたが生け贄になってしまうことは悲しいわ。生け贄になってしまったら、きっと、もう二度と会えないのでしょうし」
「ツバキ姉さま……」
コウの頭を撫でた手は、ツバキの心苦しさや無念さを表すかのように震えていた。
「そうだ!神様のところに行くときはうんと可愛くしてあげるわ。綺麗にお化粧をして、とっておきのお着物を着て……。お着物が私のお古で申し訳ないのだけど……」
「ツバキ姉さま、オレは別に女の子になりたいわけじゃ……」
「大丈夫よ! コウならきっと可愛い女の子になれるわ!」
思い込みが激しく話が通じないところがあるのは、やはりあの村長の娘ということだろう。
ツバキはうっとりとコウの頬を撫でた。
「私の可愛いコウをお嫁さんにするんですもの! イケメンで優しい神様でなければ許さないわ!」
「……いや、姉さま。生け贄です。お嫁さんじゃないです」
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