第60話
律華が父親より。
〈翔琉が入院予定時刻になっても病院に来ない、心当たりは無いか?〉
というメッセージを受け取ったのは平浜駅に到着した直後だった。
律華は進学塾で預かったプリントの封筒を持って涼守の家に向かっていた。
「お姉ちゃん……」
もしかしたら! 行先は涼守の所かも知れない。
律華が涼守の家を訪ねる。
「あの、涼守……涼守さんご在宅でしょうか?」
涼守の母親は物凄い美少女が涼守を訪ねて来た事に驚き、口をあんぐりと開けたまま、しばらく硬直した。
幸い客が途切れた時間帯。母親は律華と会話する。
「涼守さん、具合はどうなんですか?」
「え、ええ。昨日までは高熱でずっと寝込んでたけど、夜間診療所で貰った薬が効いたみたい、今は落ち着いているわ」
「そう、ですかこれ」
緊張が解けてホッとする、涼守の母は
「塾の先生から渡されたプリントです。涼守さんに渡してあげて下さい」
「涼守が通ってる進学塾の?」
律華が頷く。涼守の母は律華の表情から、涼守に対する想いを察する。
「せっかく鬼隠から訪ねて来たのですから、息子に会ってやって下さい」
「ですけど、寝ているところを起こす訳には……」
律華は気をつかった。が。
「え、律華……」
小さな店、廊下も丸見え。パジャマ姿の涼守が偶然律華を見かけた。
「あ、涼守」
涼守は自分がパジャマだった事に気づき、急いで着替えた。
玄関先に移動、律華からプリントを受け取る。
「わざわざ、平浜まで」
「テスト結果心配だったでしょう? 先生から受験合格余裕圏内だから心配しないでって言ってたわ」
「まだ、俺、全然合格圏内じゃ……」
「焦らなくても大丈夫、この成績なら、自信を持って」
「……」
「年明けからは塾来れるでしょ?」
涼守は頷いた。
「だから今は、無理しないで。ゆっくり休んで」
律華の表情は硬い、何か言いたそうな感じ。
「何かあるの?」
律華は涼守を見つめた。律華は一瞬、姉の事を話そうか迷う。でも。
「今お姉ちゃん、平浜に来ている、多分、ううん、間違い無く涼守に逢いたいと思っている。お姉ちゃん今日手術のため入院する予定だったの。でもまだ病院に来てないって」
「
律華は頷いた。
「お姉ちゃん、涼守の自宅知ってる?」
涼守は翔琉に自宅を教えていない、知らないはずだ。
「知らない。翔琉先輩は何処にいるの?」
「わからない。お年ちゃんのスマートフォン電源切られて、どこに居るのかわからないの」
直後、涼守は家を飛び出した。涼守の背中を見つめる律華。
「……やっぱり、行っちゃうんだ」
律華は涼守を見つめていた。そして。
「わたしも」
律華も涼守を追った、今の自分にはそれしか出来ない事を知っていた。涼守は目的地に向かい、真っ直ぐ走っている。多分、お姉ちゃんの居場所を知っている。
律華はクリスマスイブの日、涼守と二人で見た鬼姫伝説の映画を思い出していた。
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