第42話

 涼守は異世界にいざなわれた。


 海神市に生まれ十数年、初めて訪れた場所……では無いが、通り過ぎた事しか無い危険地帯。女性服のブランドを取り扱うショップ。


 涼守は、完全アウェー状態。周囲の視線が、痛い。

「涼守君、どれがいい?」

「え!」


 ショップの店員さんから勧められた服を何点か持ってきた翔琉、涼守にどれが良いか質問する。

「あの、その……」

「ん、試着、しないと、わからないよね」


 翔琉はショップの店員さんから勧められた服を持ち、試着室の中に入っていった。店員さんの意味ありげな笑顔「この人かカレシ?」って疑問型になっているような気がする。涼守は落ち着かない。


 試着室から翔琉が出てくる。

「これ、いい?」

「あっ、はい」


 翔琉のファッションショーがスタートした。



 色々な種類の服を試着してくれる翔琉。

「カジュアル系」

「シンプル系」

可愛らしいフェミニン系」

「ガーリー系」

「モード系」

「そして、ボーイッシュ系」


 定番と言われる系統の服をどんどん試着してくれた。その度に。

「これ、いい?」

「良い、です」


 翔琉に質問される。涼守は上手く答えられない。美人は何を着ても似合ってしまう。翔琉プクリと頬を膨らませる。

「……ボク、涼守君の、好きな服、知りたい、教えて」

「先輩、その」


 何度も試着、答えられない涼守。結局の表情などから察し、翔琉からすれば少々女の子らしい服装を選んだ。涼守は「女の子らしい服装が好み」らしいと感じた。

「スカートの私服。久しぶり」


 翔琉はスカートをつまみヒラヒラ揺らした。

「あっ……あの、綺麗です」

「ん」


 無表情ながら少し自信ありの表情。女子っぽさを強調した私服。

「じゃあ、今日、これ着て一日、過ごす」

「ええ!」

「お買い上げ、ありがとうございましたぁ~」


 いきなり高額のお買い物。さすがセレブだ。


 翔琉はクレジットカードで買い物を済ませ、髪型も少し可愛らしく直し、真のデートモードへと変身した。凄い美人が更に物凄い美人に。「ラクス・クライン」とか「セイラ・マス」ガンダムヒロインが脳裏を掠める。

「可愛い?」


 極めつけはお化粧……髪型だけじゃ無い、うっすら化粧している。唇が何時もより鮮明に……イヤでも「キス」を意識、涼守の魂が翔琉の唇で絡め取られていた。


 女の子って服装だけでもメチャ雰囲気変わるな、等と考えていた涼守、不意に思い出したことがあった。

「あ! チョット翔琉先輩に相談があるんですけど」

「ん、ナニ?」


「この店に俺くらいの女の子が好きそうな物ってありますか? 高いのは無理ですけど」

「う~ん」


 翔琉は女の子の好きそうなモノを考えた。



 店を出る。

 お洒落した翔琉は目立つ、隣で歩く涼守。

「ヤバい。俺、絶対翔琉先輩に似合ってない」


 並んで歩くと悲しくなる。絶望的格差。ネガティブモード状態。


 今日のデートのため、頑張ってお洒落しても俺は所詮ボール(RB―79)だ多少アップデートしてG型やF型、バージョンkaになったとしても……せめてパロットが「シロー・アマダ」なら。

「どう、したの?」

「なっ、何でも無いです」


 松葉杖、どうしても動きが鈍くなる。涼守は、翔琉に合わせゆっくりと歩いた。転びそうになると支えてくれる。

「大丈夫ですか? 先輩」

「ん」


 何時もさりげなく気遣いしてくれる。嬉しい。翔琉は涼守の腕にしがみついた。涼守の二の腕に伝わってくる巨乳の感触は極上、一瞬で昇天しそうになる。

「せ、先輩!」


「涼守君、ボクの事、支えるの、ヤ?」

「滅相もございません! 光栄であります」

「ん」


 腕を組み二人は歩く、翔琉を支える涼守、手には松葉杖、翔琉の香りが全身を包む。幸福過ぎて死にそうだ。順調。


 翔琉は時々、自身のスマートフォンを確認する。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る