セシル・リデルふたたび、不思議な世界へ

第8話・セシル・リデルと不思議図書館の逃げた文字と挿し絵

「セシル・リデル早く来て、不思議図書館に来て……ボクたちを助けて」


 朝霧の空──紫色の雨具を着て、紫色の傘を差していた十七歳のセシル・リデルは霧が晴れたので、傘をたたみ雨具を脱いで公園のベンチに置いた。


 助けを求めていたのは、ベンチの後ろにうずくまっていた青い色の子ネコだった。

「あなたが、しゃべったの?」

 後ろ足で立ち上がった青いネコが言った。

「そうだよ、ボクだよ……助けてセシル、ボクは不思議図書館の司書……君が好きな本が大変なんだ」

「どう大変なの?」


「実際に来てみればわかるさ……不思議な扉を抜けて」

 逆さになった扉が現れた。

 青い子ネコは、ネコ用の扉を抜けて扉の中に入ってしまった。

 セシルが扉を開けると、また扉があった。

 その扉を開けると、また少し小さい扉が、次々と扉を開けて最後に現れた扉の中からセシル・リデルは不思議な世界へ入った。


  ◆◇◆◇◆◇


 セシルが出てきたのは、台所の大きな空の鍋の底からだった。

 セシルが鍋から出ようとすると、鼻が曲がった老魔女が鍋のフタで、セシルの頭を押さえつけた。

「まだ、料理の材料は入れていないよ……煮込み料理の肉が鍋から外に出てくるな」

 魔女は鍋の中に野菜と水を入れる。

「あたし、調理される肉じゃない! セシル・リデルよ!」

「自分が料理される肉じゃないって、どう証明する」

 フタをされた鍋の中でセシルは考える、段々と鍋の中が熱くなってきた。

「ほらほら、自分が料理される肉じゃないって証明しないと、煮込み料理になっちゃうよ」


「あたしは、生きている」

「それは、証明にはならないね……ぬるま湯から茹でられた生きたカエルは、心地よいお湯の中で茹でられてカエルのスープになる」


「あたしは、人間……言葉をしゃべる」

「知性があって言葉をしゃべる者と、言葉をしゃべらない者の食材になるならないのかい、境界線はなんだい……鳴き声を発する動物だって、自分たちの言葉で会話をしている……それも証明にはならない」


 熱くなってきたセシルは、朦朧もうろうとしてきた意識の中で呟いてスープの中に沈む。

「あたしは、不思議図書館のネコの司書さんに救いを求められて、不思議の国に来たの……ネコを助けるために来た……の」


 スープの底に沈んだセシルが煮込まれている鍋が消えて、セシルは台所の床に倒れていた。

 鉤鼻の老魔女の姿が、トランプのキングヒゲを生やした若い魔女の姿に変わる。

「正解……セシル・リデルは食材でないと、証明されました……食材は人助けをしないから」

 起き上がったセシルに、ヒゲ魔女は疾走するホウキを差し出して言った。

「行きなさいセシル・リデル……あなたが探し求めるモノを見つける旅に……女にヒゲがある、石には根が生えている、ホウキは走る」


 セシル・リデルは走るホウキに股がって、ヒゲ魔女の家の台所から飛び出して行った。

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