第1話 とりま、ラーメン食いにいかねぇー?


 私は、生まれつき肌が白かった。雪のように白く透明で、例え一日海で泳ごうが、少しも黒くならなかった。小学生の時、両親は、皮膚の病気ではないか、と無理やり病院に連れていかれたのを覚えている。

 また、顔もかわいい方だったと思う。そんなわけで、小学生の時は男女問わず好かれた。あの頃は私、いつも笑っていた。毎日が楽しかった。

 私は、もっと好かれたいと思い、中学校から勉強と部活を頑張った。

 部活は陸上部に入り、朝は毎日五時に起きて二時間走っていた。練習でも真面目に取り組んだ。

 そして、部活が終わった後は家に真っ直ぐ帰って、寝るまで勉強した。勉強が辛いと思ったことはあまり無かった。

 そんなわけで、定期テストは毎回、全教科満点近くで一位。陸上も、中二になる頃には県大会で優勝していた。

 ただ、もうその時には友達はいなくなっていた。

 小学校の時に仲良くしていた友達はみな、私をいじめるようになっていた。私のガセネタが流されたり、毎日メールで酷い言葉が送られてくるのは、まだましな方だった。

 一番恐怖を感じたのは、私の部屋の窓が割られた時だった。部屋でもくもくと勉強している時に、突然パリンという高音が鳴り響くのと同時にわりと大きな石が部屋の中にどすっと入ってきた。

 外で複数人のカン高い笑い声が聞こえた時、しばらく寒気が止まらなかった。それから学校も休みがちになった。

 男子も、嫌いになった。みんな、最初は話しかけてきてすごく優しくしてくれるのだが、少し仲良くなっただけで体を求めてきた。結局は、みんなそっちが目的なんだなとうんざりして、男子も全員無視するようになった。クラスメイトにつけられて腕を掴まれるという事は何回も経験がある。


 という事をさっきの助けてくれた男に話すと、彼はそっか、と息をついた。

「君は強い」

「え?」

「そんな大変な目に遭っても、今生きている。それは強い証拠だよ」

 強い、なんて今まで言われた事が無かったから、この時の私は困惑していた。それに、自分が強いだなんて、あるわけないと思った。だって私はさっき……。

 それを言おうとすると、彼は私の口を手で覆った。そして、こう言った。

「とりま、ラーメン食いにいかねぇー?」

 

 

 数十分後には、私たちはラーメン屋の列に並んでいた。その時に色々な話をした。

「俺は宮本ひすい」

「ひすい……くん? なんか変わった名前だね」

「よく言われる」

「私は」

「かのちゃんでしょ」

「え」

「ちなみに、俺たち同じクラスだよ」

 気づかなかった。ひすいが同じクラスだという事は当然として、彼が同じ学校の制服を着ている事に。それだけ私は、他人に無頓着になっていた。

 ……ひすいは、会ったときから何かが違っていた。その何かははっきりは分からないけど、多分オーラだ。男は男でも、獣みたいな雰囲気はなく、落ち着いていた。私を傷つける可能性は限りなく低いと本能が告げていた。まだ会って数十分だけど、もうこの時の私は彼と打ち解けてしまっていた。

 色々話していると、時間は早く過ぎる物で、いつの間にか油がこってりと乗った豚骨ラーメンが目の前に置かれていた。

「ここのラーメン、家系だけど、くどくなくて良いんだよなー」

 そう言い、ひすいは、いただきます、とラーメンをすすりだした。

 私も木の割り箸を割って、麺を口に入れた。この時のラーメンは本当に美味しかった。その後、スープも飲んだが、もう、とにかく美味しかった。

 気持ちが温かくなり、泣きそうになった。目にしずくを溜めてラーメンをひたすらすすった。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る