第五話

3日目前半


 自宅で優雅に寝ていたら、窓の方から雀のさえずりではなくツァーリの200dBの声が僕の鼓膜に飛び込んできた。


「おーい勇者シルク!早く旅に出ようぜ!!」


 デジャブである。安心してほしい、決して一日前に戻ったってことはない、ないよな。


 おそるおそる窓からツァーリを覗いてみた。僕は窓から落ちないで一安心した。


 ちゃんとツァーリが居た、ツァーリが背中にハンマーではなく某任天堂のゲームキューブのような物を二つ付けた棒を担いでいた。


 物凄く強そうである、ハンマーよりかっこ悪そうだけど。


「早くダンゴムシ探しに行こうぜ!」


 バカなのかこいつは、死んでいるダンゴムシしか見たことがなさそうだな。


「残念だったな、ツァーリ! 僕は魔王討伐の仲間を探しに行くのに忙しいんだ。」


 僕はいつも参加していたツァーリの遊びを断った。


 魔王討伐の旅にでると、しばらくツァーリとも会うことができなくなると思うと悲しくなってきたな。


 でも、ツァーリの無茶苦茶な言動に振り回されなくていいと思うと少し嬉しくもあるかもしれない。


「じゃあ俺は戦士だな! いやぁ楽しみだな、じゃあ色々支度してくるな。」


 ツァーリは僕の許可も取らずについていくことが確定した、複雑である。


 ツッコミ勇者のパーティーに戦士ツァーリ加入した。


 ツァーリは楽し気に帰っていった、少しだけ楽しみかもしれない。


 僕はそれから町に出て、他の仲間を探しに行った。しかし、2時間程ほぼ全住民に声を掛けたが皆魔王に恐れおののいていた。


 元冒険者の住人に声を掛けたが、すごい首を横に振られた。


 僕は嫌われているのだろうかと思ってしまった。


 それから、足の赴くままに歩いていくと気づいたら教会にいた。


 後ろから声がした。


「勇者シルク! 俺を仲間に入れやがれ!」


 ゼリオが背後から抱き着いてきて僕の首を絞めながら要求してきた。


 僕の周りは愛情表現的なのが暴力みたいな奴らしかいないのか、イカれてんだろ。


「waがddaがらdewoばなsiteくre.」


 僕の焦ったら片言になる癖がつい出てしまった、しまったしまった。


「お~本当か、それは良かったぜ、それじゃあ準備してくるな。」


 ゼリオは僕を教会から追い出して、旅の支度をしにいった。


 ツッコミ勇者のパーティに僧侶ゼリオが仲間に加わった。


 僕は仲間集めを終了し、家に戻った。


 すると、仕事に行っているはずの父さんが家に居た。


「ついに首になったのか父さん。」


 とうとう家の父は会社をリストラされたらしい、僕は勇者を辞めてまともな職に就くべきだろうか。僕は社会人になることを決心した。


「そうそう、父さんの会社倒産したんだ、んな訳ないだろう!」


「父が息子の旅立ちを見守らないわけないだろうが!」


 父さんはノリもいいし、優しいし良いやつである。


「あと会社も休みたかったから、有給消費しないで休めて良かったぜ。」


 訂正しよう普通の奴である。


「シルクがまさか勇者になるなんて思いもしなかったわ、寂しくなるわね。」


 母さんが僕の好物を調理しながら言った。母さんも優しい人である。


 僕は豪華な昼食を頬張り、旅にでる準備をした。


 それから、一抹の不安と数多のワクワク感を胸に家を出た。


「行ってきます。」


「行ってらっしゃい。」


「危ない目に遭ったら逃げて来いよ。」


 両親は手を振って見送ってくれた。


 町の門まで走っていくと、大荷物のツァーリとゼリオが待っていた。


 出発しようとすると、町の住人が集まってくれ、見送りをしてくれるようだった。


 その中には、見覚えがある、神父もいた。


「お~い、お前ら! あんまり無理しすぎるなよ。」


 町のみんなもそうだそうだと言っていた。


「僕らは勇敢なツッコミ勇者パーティだぞ、戻るときは魔王を倒した時だ。」


 僕らは町のみんなの期待を浴びて出発した。


 それから、僕らは最初に戦闘経験を上げるために、一番弱いとされているスライムが出る河原にやってきた。


「こ、これがスライムか?」


 僕らは絶句した。


 一番弱いモンスターということが信じられなかった。


 スライムと呼ばれるモンスターは、口のような所から、マグマやら、全てを溶かす勢いの酸や全てを焼き尽くすような雷を吐き出していたのだ。


 河原は地獄絵図と化していた。


「なんで、スライムがこんなに強いねん!!」


 ツッコミ勇者パーティは全速力でサイショノムラへと戻っていった。


 なんともまぁかっこ悪い勇者達である。






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