間話 ジゴマの独白

 夜明けを知らぬ、愚かなる者たちよ。お前たちは、まだ気づかぬ。いや、気づくはずもないだろう。私は常に、お前たちの最も近くにいたのだから、な。


 私が、平坂家の馬車の運転手である黒瀬清隆だ。

 お前たちとのやり取り、その会話のすべてを、私はお前たちが移動に使う馬車を導きながら直接聞いていた。お前たちがどれだけ密やかに策を練ろうとも、すべてお見通しだった。


 花守きらめを殺害したと告げたのも、お前たちの精神を揺さぶるための、たわいもない小芝居にすぎない。お前たちは、まんまと私の掌の上で踊ったのだ。


 私は、お前の父親や執事となる男とかつて『精神統制』という技術に囚われていた。彼らはその力を恐れ、目を背け、捨て去ろうとした。だが、私は違う。私は、その『力』を、この手で掴み取ったのだ。


 宗次が恐れ、ご当主様が否定したこの技術は、決して悪ではない。この国は、悪が蔓延している。私腹を肥やすために国民を欺き、私利私欲のために他者を踏みにじる者たち……あの蛆虫どもが。彼らを裁く法も、もはや機能不全に陥っている。


 私の父は、貧しい農家の出身でありながら、独学で学問を修め、この国を憂いていた。しかし、当時の権力者たちによって、彼の正義は踏みにじられた。理不尽な法律と腐敗した官僚のせいで、父は命を落としたのだ。


 私はその時、悟った。この世界は、力を持たぬ者の正義を認めない。法も、道徳も、すべては力を持つ者の都合の良いようにねじ曲げられる。父の無念の叫びは、私の耳から、そして心から、決して離れることはない。その血と涙が、私の魂に刻み付けたのだ。『力こそが、この腐敗した世界で唯一の正義である』と。


 だからこそ、私は、この『精神統制』の力を使い、この国を悪から浄化する。悪を根絶するためなら、多少の犠牲は当然だ。それが、真の『正義』というものだ。朽ちた枝葉を切り落とさねば、木は健全に育たぬように、この国もまた、浄化を必要としているのだ。


 今回の事件は、その『正義』を世に示すための、最初の実験にすぎない。お嬢様の『殺芽の眼』、書生の稚拙な『力』、宗次の小賢しい『対抗策』……それらすべてが、私の手のひらで踊る、ちっぽけな玩具にすぎない。お前たちが今更手にした『正義』など、私の圧倒的な『力』の前には、脆くも崩れ去るだろう。


 次なる計画は、すでに始まっている。そして、その計画が完了した暁には、私はこの国のすべてを支配する。その時、お前たちと再会するのを楽しみにしている。私の『真の裁き』が、お前たちの偽りの世界を覆い尽くす、その瞬間に、な。


 今は、束の間の平和を味わうがいい。だが、その甘美な時間は、長くは続かない。

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