第41話 王子からのプロポーズ
「きっとレオン王子ね」
かんねんして足を止めて、声の方をふりむく。
「オレに黙ってたなんて、ひどいじゃないか。
アイリスもそうだし、イエルもだ」
「お兄様を悪く言わないで。
私が口止めしたんだから」
「はん。結局は親友より妹なんだな」
胸元で腕をくんだ王子は眉をひそめた。
「そんな風に言ったら、お兄様が」
「わかった。わかった。
その話はもういい」
お兄様をかばおうとしたけれど、レオン王子に手で制される。
「で、その研究所からはいつ帰ってくるんだ」
前に立っている王子が、真剣な眼差しをむけてきた。
「それは決まってないの。
私としては魔道具師になれるまで、帰らないつもりよ」
「魔道具師なんて、そう簡単になれるものじゃないぞ。
優秀な魔法使いでも、何年かかってもなれないことが多いと聞いている」
「わかっているわ。
けどもう決めたのよ。
一番苦しい時に、魔道具に助けられたの。
それで、自分も誰かの助けになる魔道具を一つでもつくってみたいと、漠然と考えていたのよ。
その気持ちをお兄様にうちあけたら、知り合いのアーリャさんの研究所を紹介されたの」
「アーリャって、学園の生徒会にいた分厚いメガネに、ボサボサの髪の男だよな」
「そうよ。学園では変わり者で有名だったけど、今じゃ世界の魔道具師よ」
「ふうん。あのアーリャがね」
王子は顎い手をそえて、天井を見上げて何かを考えている。
「たしか当時一部の女子が騒いでいた。
メガネをはずしたアーリャは、ため息がでるほどのイケメンだと。
まさかアイリスは、密かにアーリャを想っていたのか」
顔をグイと接近させてきた王子は、探るような視線をむけてきた。
完璧な王子姿のレオンに、そんなことをされたら心臓に悪い。
「失礼ね。そんなんじゃないわ」
ドギマギして頬を染める。
「なら、安心しだ。
アイリス。頼むから、研究所行きはやめてくれないか」
そう言うと王子は片足をおり、片手を差しだす。
「いきなり何をするのよ」
「アイリス。オレの妻になってください」
王子はほんのり顔を上気させた。
いつも生意気な王子のそんな様子に、大きく心は揺さぶられる。
「すごく、すごく喜しいわ」
感動でふるえる声をしぼりだす。
「じゃあ」
王子が目を輝かせる。
「でもダメなの。
あなたはこの国の王子で、私はスキャンダルまみれのコーエン家の元嫁よ。
釣り合わないわ」
「本人が良ければ、そんなのはどうでもいいじゃないか」
素早く王子は立ち上がると、自分の胸に私の頭をおしつけた。
「オレには、アイリスしかいないんだ」
分厚い胸板からはとてもいい香りがして、うっとりする。
「あなたは王族よ。それ相応の妻を娶る義務があるでしょ」
甘い気持ちを断ち切って、王子の腕からのがれた。
「待ってくれ」
スカートの裾をつまんで廊下を走る背中に、切なそうな声がささる。
このまま引き返して、王子の胸にとびこんでゆきたい。
そんな衝動にかられる。
「けど、それはやっぱりできないのよ。
ごめんなさい。ごめんなさい」
言いながら、涙があふれてきた。
するとだんだんと身体がすけてきて、気がつけば屋敷の庭で倒れていた。
無意識に、瞬間移動の魔法を発動していたようだ。
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