第40話 王女の教育係

堅固な高い塀に囲まれた優雅な城の中は、歴史を感じさる雰囲気だ。


かつて王宮主催の舞踏会に参加する為に、ここへ訪れたことはある。 


けれど王様に個人的に呼ばれるのは、もちろん初めてだ。


「緊張するわ」


王家の紋章の入った謁見の間の扉の前で、呼吸をととのえていると、両側の扉が開かれる。


すると目の前に、玉座に座る王様が現れた。


「この度はご招待、光栄の至りでございます」


家で何度も練習したカーテシーを披露する。


「そなたのおかげで、コーエン伯爵、その息子ゴットン、ケッケ神官長を捕らえることができたのだ」


「とんでもございません」


恭しく頭を深く下げると、王様のそばから大きな笑い声があがる。


「アイリス。そんな殊勝な姿は初めてみたぞ。 

猫かぶりがうまいもんだ」


声の主は、王様の左隣に座るレオン王子だった。


「し、失礼ね」


ついいつもの癖で言いかけて、息を飲んだ。 


豪華な肩章がついた、金糸で刺繍を施された上着を着たレオン王子が、美しすぎたからだった。


胸元にはキラキラ輝く飾り、足元は上質な靴、どこからみても王子そのものである。


王族の正装姿が、絵になりすぎていた。


「すまん。すまん。

けどオマエがあんまり気取ってるから、つい、からかいたくなったんだ」


頭をかくレオン王子に、回りに控えた者達も吹き出す。


おかげでその場の空気がなごみ、緊張がほぐれた。


それから、王様はゴットン達の処遇を教えてくれたのだ。


爵位を剥奪されたお父様とゴットンは、辺境の地で十年の肉体労働の刑となる。


そして、聖職をとかれたケッケ元神官長は、国外に永久追放されたそうだ。 


屋敷とすべての財産を失ったお義母様とお義姉様は、現在教会の下働きをしているという。


「いつの日かコーエンが、家族と幸せに暮らせることを祈ってます」


王様の右隣に座る王妃様が、神妙な声でおっしゃった。 


「それはそうと。アイリス。

キャル聖女はたいしたものだ。

国中にあふれる瘴気を清める忙しい毎日の中、孤児院を設立するために奔走しておる。

教会にいた頃は、手がつけられないほど乱暴者だったらしいが、まるで別人のようだ。

聞くところによると、そなたの教育の賜らしいな。

どうだろ。

その腕をみこんで、末娘の教育係をひきうけてもらえないか。

実は、末娘はかなりの我儘者で困っておるのじゃ」


王様は父親の表情になって、眉をさげる。


「なんと光栄なことでしょう。

けど、私にはなんの教育力もございません。

たまたま、キャル聖女様がいい物を秘めておられただけです」


「そんなこと言わないで」


今度は王妃様が、美しい眉をひそめた。


「私のような者に、そんなお言葉もったいのうございます。

それに私は、すでにアーリャ魔道具研究所で働くことが決まっています。

申し訳ございません」


「さようか。ならしかたがない」


「そうねえ」


お二人の言葉に、さらにレオン王子の言葉がかさなる。


「嘘だろ。オレはそんなこと聞いてないぞ」


「本当です。実は、この後出発予定なのです」


「そうか。では身体を大切にな。

また近況を知らせておくれよ」


王様の言葉にコクンとうなずき、謁見室を後にする。


「おい。まてよ」


見事な天井絵や、装飾がならぶ広い廊下を歩いていると、なじみのある声に呼びとめられた。 

 

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