第41話 夏至の火

一年で最も昼が長い日、村では古くから「夏至の火」を焚く習わしがあった。

それは冬の焚き火とは異なり、寒さを追い払うものではなかった。

むしろ光が極みに達した瞬間、その揺らぎと脆さを忘れぬために火を囲むのだという。


広場には大きな薪が積まれ、夕暮れと共に火が放たれた。

炎は夜空に高く立ち上がり、風に揺れながら赤と金の波を描いた。

村人たちはその周りを取り囲み、言葉を交わさず、ただ火の声に耳を澄ませた。


少女は私の手を取り、火の方へ歩み寄った。

炎の熱は強く、肌に突き刺さるようだった。

けれどその熱は不思議と心を冷ますものであり、胸の奥に潜んでいた影をゆっくりと和らげていった。


私は声を持たない喉を震わせた。

火の音は、私の代わりに語りかけてくれているようだった。

ぱちりと弾ける火は、過ぎ去った日々の記憶を呼び起こし、

ゆらぐ炎は、これから先の不確かな未来を映し出す。


少女は炎に向かって掌を差し出し、やがて胸に当てた。

その仕草は、自らの中に火を移すようでもあり、光を自分の鼓動と重ねるようでもあった。

私は彼女の横顔を見つめ、その影が炎に揺れるのを胸に刻んだ。


やがて長老が低い声で歌を口にした。

それは言葉にならない旋律であり、火の燃える音と絡み合いながら夜を満たした。

村人たちは目を閉じ、その歌を炎と共に受け止めた。

私もまた沈黙の中で深く息を吸い、炎の熱と歌を胸に収めた。


夜が更けるにつれ、炎は次第に小さくなり、赤い残り火となった。

その最後の光が雪解けの水のように静かに消えると、夏至の夜は終わりを告げた。


少女は私の手を握り、微笑んだ。

その笑みは炎の余韻を映していた。

私はその温もりを確かめながら、静かに目を閉じた。

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