教員と大学生
女性教員はいつもの様に教卓へ立っていた。時刻は十四時。昼休みを過ぎた中学校は、それまでの喧騒さから一風変わり、カツカツと黒板を打つチョークの音だけで、教室は静まり返っている。黒板には『将来の夢』と書かれた。女性教員が話す。
「これから皆さんには将来の夢を書いて貰います」
お調子者の生徒が聞く。
「せんせー。将来の夢ってなんですか」
「え、先生のですか」
生徒らが笑う。
「私の夢……」
そこで女性教員は考えた。
「……他の先生には言わないでくださいね。私の夢は猫になる事です。皆さんも、それくらいふわっとした目標で大丈夫です」
「なんで猫になりたいんですか?」
「将来とは分からないものだからです」
教室にまた笑いが生まれた。運動場で、風に吹かれたサッカーボールが僅かに転がって、木からまた一枚葉が落ちた。
大学生の男子はレストランでバイトをしていた。昼の厨房は忙しく、大学生の男子はホールの役割だった。「A卓に」という声がけでビールを持ってゆく。「ビールです」とテーブルに置くと、客が大学生の男子に言った。
「お兄さん。これ泡が少ないよ」
「あ、すみません!」
それを受け、大学生の男子はビールをキッチンに戻した。
「これ、泡が少ないそうです」
「了解」
キッチン担当が泡を足し、再度ビールを卓に持ってゆく。
「ああ。お兄さんありがとね」
大学生の男子はまたキッチンの方へ戻って、汗をふいた。
「大分動けるようになったね」
そばにいた先輩のホール担当が、そう声かけた。
「ありがとうございます」
また次の品がキッチン担当から運ばれた。店は夕方になるまでまだまだ忙しい。
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