十月十四日
今日もロッカー工場の勤務だった。少しずつ慣れてきたためか、作業を俯瞰して見られるようになってきた。かの工場、複数の形状のロッカーを作っているものの、その種類は一定の期間でループしている。今日のロッカーさんは数週間前に作られていたロッカーさんと同一人物らしかった。別に楽しくて仕方ない作業というわけではないが、何とかやっていけそうな雰囲気がある。安心してくれ。
さて、今日はロッカーとは少し無縁の話をしてみようと思う。
親しい友人が失恋したらしい。当人、それでかなり参っていた。心中お察しできれば良かったのであるが、私は普段、恋愛とは縁遠い生活をしているものだから全くお察しできなかった。一体、恋愛とはどんなものだったろう。私が最後に恋愛をしていたのはもうなん年も前のことになる。その人とは六年近く交際をしたのであったが、最後の一年は惰性で付き合っていた可能性を否定できない。結局この恋愛、私が人生における一大大しくじりをしたことに端を発して崩壊したのであった。それがどんな内容であったかはあまりに馬鹿馬鹿しくて公開できないが、彼女もまた、私の所業の被害者であったのかもしれない。考えてみればこの大しくじりが無ければ私は今頃システムエンジニアとして日々、食うに困らず生きていたのだ。この事実を思いだすたびに私は悶える程の自己嫌悪に陥るのだ。どうしてあんな愚かなことをしたのだろう。しかし、あの選択が無ければ、私はきっと小説を書くことと無縁の生活を送っていたことだろうから、一概に悪い選択であったともいえない気がする。しかし、やはりそれを加味しても、あの選択が無かったらと悔やむことを止められない。
生きることの前には天文学的な数の分岐があると聞いたが、私は恐らく最も正解から遠い選択肢を選んで生きているのだと思う。
話が逸れた。何の話だった? 恋愛だ。私はそんな人生を歩んでいるが故、人生から恋愛という可能性を棄却してしまったのだ。つまり身分が違うのだ。自分一人食ってゆくことすらできかねる私に誰かと共に恋愛をする権利はないのである。私の同級の者には恋愛の相手が見つからないことを嘆く者が少なくない。道理だ。三十に手が届こうというのである。人生の伴侶をこの辺りで見つけておきたいというわけであろう。しかし、恋愛を棄却した私、ちっとも焦らない。きっとこのまま誰かと恋愛することなく、年を取ってゆくのだろうと思う。
ただ、こっそりひとつだけ告白しよう。好きな人は、いる。
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