十月二十一日

 仕事でしくじりをした。といって、大きな馬鹿をしでかしたのではない。言ったところで話にもなんにもならぬ小さな馬鹿を幾つかしでかしただけだ。しかし、思った。私はやはり、まともに働くことができないのだと。ロッカー工場での単純作業の繰り返しでこうなのだから、それよりも難しい仕事など、到底できないのだ。一体、私は気が散りやすい。作業に集中しようとしても知らぬ間に集中力が切れて何かしでかす、そうして次にはそんな自分が周囲の人間にはどれだけ役立たずな人間として映っているだろうと妄想し、それがために集中力がまた途切れる。とんだ永久機関である。

 しかし、今の私にとって重要なのはミスをする自分が許せないのではないということだ。ミスをした自分がどう見られているだろうと、それが怖いのだ。結局私はいつまでも他人からの評価に怯えて暮らしてゆくしかないのである。相手の視線、声色、顔つき、それらが気になって仕方ないのである。こんな性質に生まれてしまって、とっくに慣れてしまっても良いようなものの、歳を重ねるごとに酷くなっている気がする。こうなるともう、生きてゆく自信が無い。

 先日、ロッカー工場に新しい従業員が増えた。五十過ぎの人当たりの良さそうな男性である。現在彼が先日まで私がやっていた最も簡単そうな作業の担当となっている。そのため私は少し難易度の高い作業をしているのだ。この作業がとても、私の手には負えない。説明されてみるとなるほど、そう難しい作業ではない。しかしやってみるとそうでないのだ。ただ鉄のパーツを綺麗に並べてゆくだけのことができない。パーツの上下を間違え、歪に並べ、時に流れ作業を止め、私の脳は一層ショートし、何もかもうまくゆかなくなる。

 もはやこの仕事を続けてゆけるだけの望みはない。にもかかわらず、やめるわけにもゆかない。ロッカー工場の人手不足を聞いて不憫に思っているという気持ちが無いわけではない。しかし、それ以上の理由がある。やめては食ってゆけぬのだ。金が、無い。別の仕事を探そうにも、ロッカー工場でこうなのだから、他の仕事でも同じように使い物にならないに決まっている。

 もう少し陽気な日記にしたいところだが、なかなかそうもゆかない。その内少し趣向を変えてロッカー工場のイカれた(別にイカれてない)仲間たちの紹介でもしてみようか。社長に女大黒、グショタ、モン兄、ヨーさん、オジン愉快な仲間がいっぱいだ。じゃ、次回までご機嫌よう。

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