宝石の名2

 水の入ったバスタブにナツキの皮を浮かべて両手で沈める。皮の切れ込みから水が入り、チャックが閉まるように元に戻り本来の姿になると浮かび上がった。

 レイモンドはナツキの唇に口をつけ、ふうと息を吹き込む。その顔に赤みが戻り、ほんの少し薄目が開く。

「ナツキ様、無事終わりましたよ。あなたのメッセージもイツカに届いています」

 ナツキが小さく瞬きをすると、レイモンドはその額にキスを落とす。

「おやすみなさい。あなたのためにも早く終わらせましょう」

 またバスタブの中に沈むナツキを置いて、レイモンドは寝室へ戻った。

 ベットにはミズナギが横たわっている。傍に座ると柔らかな頬に触れた。まだ冷たい体は青白い。着ていたシャツを脱ぎ、覆いかぶさると頭を撫でる。すうっとミズナギが息を吸い込んで瞼を開く。淡い色の瞳がレイモンドを捉えると柔らかに細まって弓になった。

「レイ……」

「まだ……戻りませんか?」

「もう少し……かかる。我は……変わらぬか?」

 ミズナギの細い指がレイモンドの唇に触れて、レイモンドはそれに口づける。

「お変わりありません。見たところ二割ほどしか戻っていませんね。抱いてもよろしいなら力は少し戻せます」

 ミズナギは柔らかな口を開くとレイモンドを受け入れた。



 事が過ぎて、レイモンドがぱたりとベットに倒れこむとミズナギはぱちりと目を開いた。ゆっくりと体を起こし両手を挙げ手の平を確認し体に触れる。足の指を動かすと、隣に横たわるレイモンドを見た。

「……我は男の体のようじゃ」

 抱き合っていたのに気付いていないとは……レイモンドは苦笑する。

「そのようですね、宿主のナツキ様に何かなさったのでは?」

「ナツキ?」

「はい。あなたを外に出す時に随分と時間がかかったのです、通常ならもっと早くできたはずですが、あなたの力によるものかと。ナツキ様にはそのような力はありませんから」

「……そういえば何かいたな……。ああ、そうか。それでか」

 ミズナギは何かに納得したように頷いた。

「宿主はナツキといったか。あれは魂が死に掛けていてな。それで女である我を与えてきたようだ」

「ええ?大丈夫なのですか?」

 レイモンドが飛び起きるとミズナギは笑う。

「ああ……ガワだけだ。あれに神気はない。それにお前も少しはナツキに力をやったのだろう?」

「はい。本当に少し……私も力が足りませんでしたから」

「さっき抱き合ったから戻ってはいないのか?」

 ミズナギの微笑みにレイモンドも口元を緩ませる。

「はい。完全にとは行きませんが随分と戻りました。やはり儀式に力を使いすぎたようです」

 ふうとベットに横たわるとレイモンドは目を細めた。

「こんな体勢で失礼いたします。お帰りなさいませ、ミズナギ様」

「すまないな……女の私ならば、お前との水で百に戻してやれたろうに」

「いいえ、私は随分と長い間、あなたを探していたのですよ。お会いしとうございました」

「我もだ」

 二人は微笑み合うと体を寄せた。口付けを交わすごとに二人の中の水が交差してゆっくりと溶け合う。水に溶けた愛はまたゆっくりと分裂し、きらきらと水の雫へ変わっていく。少し淀んでいたレイモンドの水が透き通る薔薇色に変わり、力という波が二人を包んでいた。

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