かくれんぼ1

 午後になり雨は一層強くなっていた。アスファルトを叩く雨が少し煙っている。

 二人は傘をさして町の中心を目指していた。この先で殺人事件が起きたと今朝、速報で流れていたからだ。

「犠牲者は女だったか?……刺殺体だったと聞いたが」

「そのようです。執行者はまだ発見されていませんが、一人手にかけているとなると、お決まりの遊びを始めるかと思われます」

「ああ、かくれんぼか」

 鬼のゲームに参加する執行者は一人殺すと、快楽を覚え遊びに見立てて被害者を追いかけることがある。これはどの執行者も同じで、どうやら殺しがスムーズに進むようにとの鬼の配慮らしい。

 アイ、シー、ユー。それが遊びの決まり文句。レイモンドはすでに三人狩っているが、それぞれ文句を口にしていた。

「鬼どもも酔狂よの」

 ミズナギがぼやくとレイモンドは苦笑する。

「そうかも知れません……ミズナギ様、武器はお持ちですか?」

「ああ、追尾ついび銃を。お前は物理で戦うつもりか?」

「いいえ。私も追尾銃を。それにミズナギ様もおられますから戦いは楽になるかと」

「だといいが。執行者とはいえ、もとは人であるからな……」

 ミズナギがまじないを唱え視線を空に向けると稲光が走り、雨が強くなった。ピシャンと雷が落ちる。辺りが停電したのか、ふっと暗くなると向こうの道路から人の走る音がかすかに聞こえた。

 ずぶ濡れの少女が走ってくる。二人を見つけるとぐしゃぐしゃの顔で飛びついた。

「助けてください。怖い人に追われてて」

 ミズナギの胸に飛びついた少女は顔を上げた。彼の顔を見た瞬間、その目は潤み頬は上気する、砕けるように足が揺れるとミズナギに縋りついた。どんな人間であってもミズナギを見ればそうなる。見かねてレイモンドが少女を引き取った。

「いいですか?ここから少し行った場所にコンビニがあります。そこへ逃げ込んでください。ご家族に連絡して、雷が治まったら迎えにくるようにおっしゃってください」

 少女に傘を握らせてレイモンドは微笑む。少女はまた顔を赤らめたが、先ほどとは違い安心したように頷くと走り去ってしまった。

 ミズナギは自分の傘をレイモンドに差し出す。パラパラとその肩が濡れたのでレイモンドは彼を抱き寄せた。

「……どの世も変わらない、くだらぬ」とミズナギはそっぽを向く。

「私はあなたのその全てを愛しております」

 当たり前と微笑むレイモンドにミズナギは鼻で笑った。

「口が上手いな。さて、登場だ」

 少女のやってきた道から黒いパーカーを来た人物が軽やかな足取りでやってくる。

「アイ、シー、ユー」

 楽しげな声が響いてフードを被った顔が引きあがった。まだ幼さの残る青年はミズナギを見て嬉しそうに笑う。

「ええ?えええ?本当に?」

 その場でくるっと回ると、まるでサーカスのピエロのように頭を下げた。

「信じられない。あなたのような美しい方がいるなんて。二人目はあなたにしよう、そうしよう!そうしよう!」

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