第15話 【蘇生】の勇者は作戦会議を開く





「では今から作戦会議を始めます」


「「「「おー!!」」」」



 勇者たちがどこか気の抜ける返事をする。



「えー、まずシレスタのお陰で見事にイクシオン王国軍を撃退できました。皆さん、拍手!!」


「「「「わー(ぱちぱち)」」」」


「では早速本題に入ります。今回の議題は二つ、防衛計画の見直しと襲撃計画についてです」



 どちらもイクシオン王国を相手にする上で重要なものだ。


 まずは防衛計画の見直しから。



「皆さんもご存知かと思いますが、イクシオン王国軍はシズクイシさんの世界の知識を使って強大な武器や兵器を製造しています」


「銃や戦車のことですな」


「イムルさん、発言は挙手をしてからお願いします」


「むむ、失礼しましたぞ!!」



 改めてイムルさんが挙手し、意見を述べる。



「ジブンやライシス氏を始めとした一部の勇者で鹵獲した銃の性能を分析しましたぞ!!」


「貴様は大して何もしていないだろうに、まるで自分が主導して調査したかのように語るのはやめろ」


「ぬはは!! 実は設計書をジブンの能力で盗み見できないか試してみたら失敗しましたぞ!! 原因は全く不明ですな!! そもそも書物に設計図をまとめていないか、書物以外の何かに記録しておるのやも知れませんぞ!!」


「横から失礼する。【解析】の勇者、ライシスだ。この銃は前に獣人の集落を襲っていた兵士が使っていたもので、こっちは先日の襲撃の際にイクシオン王国軍が使っていたものだ。便宜上、旧式と新式と呼ぼう」



 ライシスさんが二つの銃を掲げる。


 どちらも似たような形状をしているが、大きな違いがあるらしい。


 勇者たちが耳を傾ける。



「まず、銃の仕組みについて話す。シズクイシの話によると、銃は『火薬』なるものを使って金属の玉を撃ち出すものらしい。ただ、この世界に火薬は存在しない。そもそも生成に必要な物質が存在しない」


「あ、あの、質問いいですか? 火薬がないのにどうやって玉を撃ち出してるんですか?」


「当然の疑問だな、ティアラ嬢。答えはシンプル、ドワーフの魔導技術が使われている」


「ドワーフ……」



 ドワーフは高度な金属の加工技術や細工技術、魔導具の製造技術を持つ種族だ。



「銃を分解したところ、爆裂魔法を付与した痕跡があった。旧式は銃そのものに、新式は撃ち出す弾丸に。新式は爆裂魔法が調整されていて、撃つ度に銃口内の清掃をする必要がない」


「それに加えて弾倉を用いることで効率的に給弾、連射できるようですな。あと単純に構造がシンプルで壊れにくいみたいですぞ」


「そして、ライフリングの有無が威力と命中率を底上げしている。シレスタやロコロ、勇者の中でも戦闘に秀でた勇者を実際に撃って試してみたが、人体を貫通する威力はなかった。精々赤く腫れる程度だな。当たりどころが悪いと気絶するだろうが」


「つまりジブンのようなクソザコナメクジ勇者はどこに当たっても死にますぞ!!」



 ……上位の実力がある勇者ですら当たりどころが悪いと気絶する威力、か。


 俺が食らったら死にそうだな。



「大砲に関しては説明不要だろう。基本的な仕組みは銃と同じだ。デカイだけ威力が増していて、直撃すれば間違いなく死に至る」


「問題はこの大砲を載せた戦車ですぞ」


「うむ。速度はあまり出ないが、分厚い装甲は頑丈で攻撃が通りにくい。シレスタが敵戦車を全て破壊してしまった故、詳細な性能は不明だが……数を揃えられると脅威だ」



 俺は想像する。


 たまたま当たったとはいえ、シレスタに一撃で致命傷を負わせた威力が戦車にはあるのだ。


 たしかに数が揃えば脅威だろう。


 そして、イクシオン王国軍の国力なら量産することも難しくないはず。



「とはいえ、戦車を相手取るのは言うほど大変でもない。シレスタを仕留めた一撃はまぐれ当たりで、滅多に当たらないからな。何よりこちらの攻撃が届く。問題はこちらの攻撃が届かない兵器が出てきた場合だ」


「戦闘機のことですな」



 戦闘機というのは自在に空を舞い、銃を始めとした様々な兵器を載せて攻撃できる搭乗型の兵器らしい。


 上空からの攻撃は厄介どころの話ではない。


 もしイクシオン王国が戦闘機の開発に成功していたら一方的な攻撃を受けるだけだろう。



「現状、上空の敵に対処できるのは飛行能力がある【翼】の勇者と【竜】の勇者だけだ。いくら塔が頑丈と言っても、対策は必要だろう。こちらから襲撃する場合も同様だな」



 そう言って話を終えるライシスさん。


 すると、最後まで話を訊いていたシズクイシさんがおずおずと手を挙げた。



「あ、あの、たしかに戦闘機は脅威だって言いましたけど、戦車よりもずっと高性能なエンジン……動力が必要ですし、流石に作れないと思うのでそこまで警戒する必要は……」


「でも銃にドワーフの技術が使われている以上、少なからず兵器の製造にドワーフが関わっているはず。ドワーフなら作りかねないですぞ」


「イムルさんの言う通りです。それに、万が一に備えておくのは大事なことですから」



 とはいえ……。



「「「「具体的な対策が思い付かない!!」」」」


「作戦会議を開いた意味!!」



 俺を含めた勇者たちの本音にシズクイシさんのツッコミが炸裂する。


 いやまあ、実際どうしようもないのだ。


 人間はそもそも空を舞う相手に対して戦う力を持たない。

 勇者もその例に漏れず、対策を立てようにもどうにもならない。



「なーに、本当にセントーキが襲ってきたらワタシが返り討ちにしてやるのだ!!」



 まだ幼さの残る少女、【竜】の勇者ドランが胸を張って言う。

 現状では彼女に頑張ってもらうしかないのが心苦しいな。


 そして、議題は次に移る。



「襲撃計画ですが、戦える勇者を全て動員した速攻がいいと個人的には思っています。早く潰せば戦闘機云々とか関係ないですし」


「お兄さんって意外と脳筋?」


「だ、誰が脳筋ですか!! 割と真面目な作戦を立てたつもりですよ!!」


「は、はい!! い、意見、いいですか?」



 ティアラさんが手を挙げた。



「や、やっぱり王都は警備が厳重だと思うので、しっかり戦力を整えてからの方がいいと思います!!」


「……ふむ。たしかにイクシオン王国がすでに強力な兵器を開発している可能性はありますし、慎重になるのはいいことですね」


「ジブンは反対ですぞ!! 連中に時間を与えれば与えるほど、絶対にロクでもない兵器を作りますぞ!! まあ、ジブンは戦う力がないので人任せになりますがな!!」



 どちらの意見ももっともだ。


 そのせいか、全員で多数決を取っても綺麗に二つに分かれてしまった。



「お兄さん、ぼくも意見がある」


「なんですか、シレスタ?」


「ぼくたちもイクシオン王国も、時間が経てば経つほど戦力は整う。だから今攻めても後で攻めても変わらない」


「ふむ?」


「だから密偵を放って情報を集めるべきだと思う。イクシオン王国がどういう兵器を作っているのか事前に知っておくだけでも戦いは有利になるし、一部を盗み出して利用することもできるかも知れない」



 おお、と勇者たちがざわめく。



「……たしかに一理あります。問題は誰に密偵をやってもらうか、ですね。危険なので強い人に任せたいですけど……」


「ん、適任がいる。お兄さんが昨日蘇生したばかりの人」


「え? あっ……ええ!? あの人を密偵に!?」



 俺はシレスタの提案に頷くことができなかった。


 というのも、シレスタの言う人物は今までにないぶっちぎりの危険人物なのだ。



「彼女を解き放つのはちょっと……」


「でもお兄さん、もしかしたらあの人だけでイクシオン王国を終わらせられるかも知れないよ?」


「それは、そうですが」


「あの人に任せておけば問題ない。この世界はあの人にしか救えない」


「ん?」


「だからお兄さん、全部彼女に委ねよう。そうすれば世界は愛で満ちて平和に――」



 シレスタの様子がおかしい。


 そう思った次の瞬間、【殺戮】の勇者もといロコロさんがシレスタの首を素手で斬り落とした。


 絶命するシレスタ。


 その光景を見ていた勇者たちが悲鳴を上げて、シズクイシさんに至っては突然のスプラッタに腰を抜かした。



「エ、エルオットさん!! あ、あの人、いきなりシレスタさんを!!」


「大丈夫です、シズクイシさん。ロコロさん、助かりました」


「いや、むしろ気付くのが遅かったくらいだよ。取り敢えずシレスタ嬢の蘇生をお願いしてもいいかな?」



 俺はシレスタを蘇生した。


 すると、彼女は瞬時に何が起こったのかを理解して頭を抱える。



「不覚。よりによってロコロに助けられるなんて」


「正気に戻ったみたいでよかったよ」


「次は呆気なく殺されたりしない」


「それは困るかな。また彼女の影響を受けたら殺して止めないといけないし」


「……絶対に負けない」



 バチバチの火花を散らすシレスタと困った様子で笑うロコロさん。


 一番パニックなのはシズクイシさんだ。



「ど、どういうことなんですか? どうしてロコロさんはいきなりシレスタさんを?」


「……シレスタはさっき話していた人物――【愛】の勇者の能力の影響を受けてたんです」


「あ、【愛】の勇者? 凄くいい響きですけど」


「ところがどっこい。彼女の【愛】は思想を伝染させる効果がありまして」


「し、思想を伝染……?」


「なんて言えばいいんですかね。彼女の考えに欠片でも共感すると一気に精神汚染を受けるというか、その精神汚染を受けた人からも精神汚染を受けるというか。シレスタが彼女と会話したのは復活した時だけですし、その短時間で影響を受けたことからもヤバさが伝わると思います」


「……怖っ」



 実は俺も怖い。



「彼女をイクシオン王国に放てば、情報収集のみならず甚大な被害を与えられるでしょうが、その後が怖いんです……」


「でもお兄さん。彼女を手元に置いておいたら、ここにいる勇者たちが思想感染を受けるよ?」


「よし、イクシオン王国に放ちましょう!!」



 俺は早速【愛】の勇者のもとへ向かう。


 向かった先は奈落の最下層、その一画にある小さな建物だ。



「お邪魔します」


「あら、エルオットさま。ようこそおいでくださいました」


「実は折り入って貴女に――アイラさんにお願いがありまして」


「うふふ、そう畏まらないでください」



 俺を出迎えたのは朗らかな笑みを浮かべた美しい女性だった。


 バイオレットの髪が印象的な美女だ。


 高い身長と豊かな胸と細い腰、肉感のあるお尻とムチムチの太もも。

 メイメイさんが作ったドレスがよく似合っている。



「――ふむ、私が密偵ですか。もちろん、私でよければ是非とも協力させてくださいませ」


「ありがとうございます。……ええと、あくまでも密偵ですから、情報収集をお願いしますね?」


「うふふ、ええ、ええ!! ご安心を。私の愛で迷える人々をお救いしますとも!!」


「話聞いてましたか?」


「そう、愛です!! 愛こそが世界を救うのです!! 私は愛の伝道師!! 私の愛で罪深きイクシオンの民を導くのです!!」



 不安しかない。


 いや、彼女をイクシオン王国に送り込めば、情報収集のみならず大規模な思想感染を起こして打撃を与えられるだろう。


 ……でも、ある程度彼女の暴走を止められる人物が近くにいないと後が怖い。

 イクシオン王国を滅ぼした後で世界規模の思想感染が起こったら一大事だからな。


 まあ、アイラさんが死ぬと思想感染は止まる。


 彼女の近くに彼女をすぐ仕留められるような人物がいればいいが、問題はその人まで思想感染する可能性があるということ。


 どうしたものか。



「では我が同行しましょう」


「あ、ゾナさん」


「我は女神様のしもべ、偉大なるエルオット王の臣下。思想パンデミック女の影響は受けないのでご安心を」


「え!? そうなんですか!? じゃあよろしくお願いします!!」



 思わぬ人材がいたお陰でどうにかなりそうだ。


 翌日、アイラさんとゾナさんは共にイクシオン王国を目指して旅立った。







―――――――――――――――――――――

あとがき

ワンポイントモブ勇者紹介

【愛】の勇者アイラ

少しでも共感した者を自らの思想で洗脳する力の持ち主。その効果は年齢や性別、種族、実力を問わず及ぶバチクソ危険な能力で、天使や女神のような上位存在には効かない。本人はこの力をほぼ無自覚に振るっており、影響を受けている側も自覚できない。また至って真剣に愛について説くのでタチが悪い。あまりにもおっぱいが大きいのでメイメイに「どうやってそこまで育てたの?」といつ質問をされた。本人の回答は「私の胸には愛が詰まっているのです」とのこと。



★3000突破、ありがとうございます!!



「前半真面目な話で草」「ロコロがナイスすぎる笑」「アイラに洗脳されたい」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。

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