第14話 【斬撃】の勇者の独白





 ぼくの人生は、あっさりしたものだった。


 故郷を魔王に滅ぼされ、勇者だったぼくは戦うことを決意した。

 もうぼくと同じ目に遭う人を、出したくなかったから。


 その戦いの中で運命の相手と思える人と出会えたのは一種の皮肉だろう。


 ぼくが愛した人はイクシオン王国の前身の国、イクレシア帝国の第一皇子だった。

 田舎者のぼくにも親切で、気にかけてくれた優しい人だった。


 でも――



『この売女め!! 貴様のような女を愛していたと思うと吐き気がする!!』



 ぼくを口汚く罵る皇子。


 その皇子の後ろでニヤニヤと下卑た笑みを浮かべていたのは見覚えのある男だった。


 戦場の最前線で戦う皇子への補給物資を止められたくなければ身体で奉仕しろ、などとぼくを脅してきた帝国軍の偉い人だ。


 ぼくはその要求を断れなかった。


 だってぼくは皇子のことを愛していて、皇子のためなら何でもできたから。


 でも皇子はぼくを嫌いになったらしい。


 ぼくは将兵らを誘惑して国に損害を与えようとした罪で捕まった。


 その後、ぼくは罰として兵たちへの慰労を命じられた。

 兵士たちを言葉巧みに誘惑できないよう、丁寧に喉を裂かれて。


 正直、不快でしかなかった。


 喉は常にむず痒い上、ぼくを見てくる兵士たちの顔が獣みたいで思わず殺したくなることが何度もあった。


 ……もっとも、勇者の力を封じる枷を嵌められてしまえばぼくはただの小娘だ。


 いいように使われてしまう毎日だった。


 でもドン底にも希望はあるもので、同じく慰労を命じられていた娼婦の女の人と友だちになることができた。



『貴女、勇者なのよね!? 初めて見たわ!! 本当に目が金色なのね!!』



 彼女はマイペースな人だった。


 罪人であるぼくを避けることもなく、嫌な顔一つしないで兵士たちを慰め、常に可憐な笑みを浮かべていた。


 あとおっぱいがとても大きかった。


 ぼくが喉を裂かれていて話すことができないと知った時は文字を教えてくれた。

 筆談なら話せるでしょと無邪気に言った時の彼女の笑顔は忘れられない。



『私ね、妹がいるの!! ちょうどシレスタと同じくらいの年頃で、とっても可愛いの!! もし戦争が終わったらうちに遊びに来て!!』



 そう言って微笑む彼女は、死んだ。


 ぼくが幸せそうにしているのが気に入らなかった軍の偉い人にあらぬ罪を着せられて、晒し首にされてしまった。


 ……ぼくのせいだと思った。


 ぼくが何もかも諦めていたから、彼女はぼくに優しくしてくれた。

 そのせいで彼女は目を付けられて殺されてしまった。


 その後、ぼくは皇子暗殺の計画を立てたというでっち上げの罪で再び捕まり、今度こそ処刑されることになった。


 もう何もかもがどうでもよくなった。


 強いて言えば、ぼくが死なせてしまった彼女に謝りたい。


 でも死者は蘇らない。


 ぼくは深い絶望の中で『大穴』に落ちながら、この世界を呪った。


 ……気付くとぼくは暗闇の中に立っていた。


 大きな狼の魔物に襲われそうな、勇者の証である黄金の瞳を宿した青年が助けを必要としていることは分かる。


 分かったところで、何だと言うのか。


 ぼくの【斬撃】なら狼の魔物を倒すことはできるだろう。


 どうでもいい。



「……状況はよく分からないけれど」



 だからぼくは自分の言動を理解できなかった。


 喉を斬られて出せなくなっていたはずの声で語り出す自分が。



「お兄さんに助けが必要なことは、見れば分かる」



 ぼくはその青年を助けた。


 ただ何となく、助けたいと思ったから助けてしまった。


 チャンスだと思ったのだ。


 何も守れなかったぼくに、また何かを守る機会がやってきたのだと。


 それに……。



(……これ、お兄さんの記憶?)



 ぼくの頭の中に知らない記憶があった。


 優しい両親や友人たちに囲まれて過ごした幼少期の思い出。


 魔物に襲われ、滅びた故郷の景色。


 それが全て信じていた国の工作によるもので、あらぬ罪を着せられて、奈落に落とされてしまった。



(ぼくと同じで、でも違う。全部失ったのに、生きることを諦めてない。……助けてあげたいな)



 それから目覚めたお兄さんと話して、ぼくは彼に好意を抱いた。


 何もかも失ってやる気も目標もなくなったぼくとは違う。

 自分の意志で復讐すると決めた彼を応援してあげたいと心から思った。


 あと……。


 ぼくから友だちを奪ったイクレシア帝国の末裔をぶっ殺したい。

 より正確にいえば、軍の偉い人の末裔を八つ裂きにしてやりたい。


 だからこそ。だからこそ――







「や、やったぞ!! 戦車が化け物をぶっ殺した!!」


「見ろ!! 下半身が木っ端微塵だ!!」


「待て待て、まだ動いてる!! 念入りに銃弾を撃ち込め!! 確実に仕留めろ!!」



 イクシオン王国軍がぼくを取り囲む。


 ぼくは戦車なる兵器の攻撃をもろに食らってしまったらしい。


 下半身の感覚がない。


 見ればぐちゃぐちゃの肉片と化しており、すぐに死ぬことは分かった。


 これでは欠損が激しすぎてお兄さんの【蘇生】を使っても生き返ることができるかどうか分からない。


 だったらぼくのやるべきことは一つ。



「――乱嵐斬光らんらんざんこう



 奈落の底で『悪逆の竜』を倒すために開発した、ぼくの必殺技。


 光の速さの斬撃を嵐のように放つだけの技。


 ただこの技には大きな欠点があり、反動が大きすぎるのだ。

 ハチに負担を掛けるのが可哀想で『悪逆の竜』には使わなかったが……。


 どうせ死ぬなら使っても問題ない。



「え、何が――」


「ひぎゃ――」


「うわ――」



 兵士たちが八つ裂きになる。いや、その表現は不適切だろう。


 肉はおろか骨ごと微塵切りだ。


 近くにいた兵士たちに至っては血飛沫と化して風に流されている。


 ぼくの下半身を吹っ飛ばした戦車は最初の数発こそどうにか耐えていたが、すぐに鉄屑へと成り果てた。


 我ながらえぐい攻撃である。



「がはっ」



 反動で両腕の筋肉が裂け、骨がひしゃげて捻じ切れ、弾け飛ぶ。


 もう痛みを感じなくなるほどのダメージだ。



「はぁ、はぁ、はぁ……油断しちゃったな」



 お兄さんに多対一が得意と大見得を切っておきながらこの様だ。


 きっとお兄さんは悲しむだろう。


 この下半身と両腕の欠損ではお兄さんの【蘇生】でも生き返ることは不可能なはずだ。


 ……それはそれで有りかも知れない。


 お兄さんの記憶に残り続けるという意味では悪くない。


 ぼくの意識はそこで途絶えて――



「ん、ここは……?」


「よっしゃあー!! 生き返った!! 俺、よくやった!!」



 目を開けると、そこにはガッツポーズを取っているお兄さんの姿があった。


 いや、イムルやティアラ、メイメイやその他の勇者たちも心配そうな眼差しでぼくの顔を見つめている。


 あれ? ぼく、生き返った?



「どうして……? あの欠損じゃ……」


「皆でシレスタ氏の肉と骨をかき集めて骨肉パズルを完成させたのですぞ!!」


「もう二度とやらないわよ!! 他の死体の骨と混ざって一欠片ずつ調べるの大変だったんだから!!」


「は、はい、とてもグロかったです……」



 どうやら勇者総出でぼくの身体をかき集めて蘇生したらしい。


 迷惑をかけたようだ。



「シレスタ」


「お兄さん?」


「ちょっとそこに正座してもらえますか?」



 お兄さんが真剣な声音で言い、そこから小一時間ほどお説教が始まった。



「止められなかった俺も俺ですが、死ぬくらいなら最初から単騎で挑まないでください」


「だ、だって、戦車? とかいう兵器の攻撃が直撃するとは思ってなくて……」


「……そうですね。シズクイシさんから聞いていながら俺も警戒していませんでした。そこは反省です」


「ん、分かってもらえてよかった」


「でもそれはそれ、これはこれです」



 そう言ってぼくに詰め寄ってきたお兄さん。


 どうやら本気で怒っているようだけど、ぼくに対する怒りではなさそうだった。



「本当に焦ったんですよ。シレスタを蘇生できないかも知れないって」


「お兄さん……」


「本当に、本当に生き返ってよかったです」



 お兄さんの心底安堵したような表情に、ぼくは胸が高鳴るのを感じた。



「お兄さん、ぼくと今すぐ結婚しよう」


「……は?」


「細かいことは気にしなくていい。ぼくと結婚して子供を作ろう。ぼくは男の子と女の子、両方ほしいけど、お兄さんは?」


「え? いや、ちょ、シレスタ? そう言ってうやむやにしようとしても――」


「お説教は後回し。ぼくと今すぐイチャイチャしよう」



 ぼくはお兄さんに迫り、無理やり唇を奪った。


 呆気に取られるお兄さんが可愛くて、ドキドキする。



「な、何を!? 皆見てるんですよ!?」


「むしろ見せつけるから問題ない」


「大ありです!! ちょ、皆さん!! ニヤニヤしてないで止めてくださいよ!!」



 その時、一連の流れを見ていた【献身】の勇者ハチがボソッと言った。



「ボス、シレスタと交尾するの?」


「しない!!」


「する!!」


「ハチ、交尾見てみたい!!」



 ハチが生まれた時代の獣人は性に関して人間とは異なる価値観がある故の発言だろう。


 流石にハチの目の前でお兄さんとエッチなことをする勇気はなかったので、大人しく諦めることにした。


 





―――――――――――――――――――――

あとがき

ワンポイント小話

ハチの時代の獣人は子供の頃から交尾について学ぶ。主に両親の現場を見て。



獣人のトンデモ設定にびっくりしたら★★★ください。



「軍の偉い人がクズすぎる」「シレスタの必殺技がつよい」「生き返ってよかった」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。

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