現地調査記録――深夜の雷電社
2025年8月28日
白井誠 現地調査記録――深夜の雷電社
***
午前0時15分、雷電社跡地に追加調査のため再訪。
持参したカメラ及びレコーダーの電源を投入。
最初は順調に記録できていたが、社の木組みの枠に接近すると、突然カメラの液晶モニターが断続的に明滅。
白飛びや色彩の異常、ピントの急激なぼやけが同時多発。カメラ本体の温度が上がり、5分後に強制停止。
撮影した画像はほぼ全て消失。残った画像もノイズ混じりとなる。
レコーダーでは、木骨組付近の録音中、「ゴォォ…」という低く幅広いノイズ、時折「ピィ…」という電子音が挿入。
再生音量が急に落ちる現象と、記録ファイルの大多数に消失を確認した。社から離れるとノイズは激減。
スマートフォンはGPSが一時的に使用不能。「現在地特定不可」「再起動してください」と表示。
SNSでリアルタイム報告を試みるも編集不可。
地図アプリの現在地アイコンが大きく円を描くように動き、正確な位置情報取得が不可。
バッテリー残量も急激に低下し、30%→3%へのジャンプ。端末を社付近から離して立ち位置を変えると、残量/表示が通常値に戻る。
現場滞在中、体調に異変あり。
木骨組みの真下で数分間、強い耳鳴り・後頭部への圧迫感。
社から祠に移動する間も、視界の端に灰色がかった帯状の影が一瞬流れる錯覚。風の音では説明困難な低いざわつき。
記録中、思考が断片化し、メモを取る手元が震える。2回、下書きが何を書いているかわからなくなった。
短時間だが“周囲の空気が急に白く濁った”ような視覚的錯乱も体感。
祠前で撮影を続行。
懐中電灯の光が祠内部で異常反射し、金属片が一秒ほどだけ強く青白く輝く。同時にスマホカメラが反応せず、黒画面のまま記録された。
録音中の音声には、調査後再生時、「(低音)…ナイ…イ…タ…イ…タ…」と人声とも電子的な響きともつかぬ断続的な音が混入。
社の木組み、祠、荒地のいずれでも機材の不具合と、自身の感覚異常が同時発生。場所を離れ徒歩で集落へ戻ると、機材は順に通常通り復旧。
体調も帰還後30分で平常化。
記録メモは一部判読不能な走り書きや誤字を多数残した。
***
午前2時40分、体調が回復したため再訪。
天候は無風、雲多く月光ほぼ差さず。これまでの調査記録を踏まえ、祠の“内部”へ直接接触することを決断。
祠は幅1.1メートル、高さ70センチほど。古びた木板に簡素な屋根、一部釘が緩み、表面は強く乾燥して指先でなぞると細かな粉が落ちる。
扉は横開き。
僅かな抵抗を感じつつ、懐中電灯で内部を照射。
視界には薄暗い空間──床面は荒れた土が露出、中央に掌大の石数個が散乱。最も大きな石は薄く黄色みがかっており、表面に螺旋状の微細な刻み模様を確認。
本能的に手で触れるのは危険と判断し、撮影のみ実行。
床の窪みより、古布の一端が見える。恐る恐る引き上げると、破れた布切れにかすれた絵画のようなもの。
識別困難ながら、以前に確認した民俗調査報告集に掲載されていた雷電神の絵に類似したものと推測。
照射を続けると、内部の奥隅から微細な水滴がポタリ、乾いたはずの土が一部湿り始めた。
温度計測では外気に比べて内部が4.5度低い。空気が重く、呼吸が浅く感じる。
現地での聴覚異常も発生。
扉の開閉時、「カラカラ…」という木と石の微振音に、時折「ヒュルル…」という低い唸り。「タタタ…」という微弱な打音も床下より発生。
録音機を内部へ向けると、リアルタイムで「ピィ、ピィ、ピィ…」と高周波の連続音声が入り、数秒間本体がフリーズした。
現場でメモを取ろうとするも、手元が震え、文字がまともに書けない症状が再発。
祠の前で全身に薄い痺れ、「何者かに背後から見られている」圧迫感が持続。
慎重に扉を元に戻し、速やかに現場撤収。
帰還後、記録画像・音声データの大部分が消失したことを確認。
かろうじて残っていた音声データを再生中、一部に「うなり」「人声らしき断片」「虫の羽音に似た高周波」が混入。
以上、深夜の雷電社の調査記録。
現場の物理的痕跡/異常現象/心理的圧迫の三要素が重層的に現出し、「禁忌領域」であるとの地元伝承が生理的現実として裏付けられた印象。
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