白井誠の手記

私が追い求めていた「真実」は、もう遠くの幻影ではない。

いや、幻影だったのかもしれない。だが、その揺らぎの中に潜む何か――

計測値や映像が示す現象の数々はは、理性の範囲を遥かに超えて、もはや私の心の奥底を深く抉り取ってしまった。


事実だけを頼りに調査を始めたはずが、 今や私は不思議な“波紋”に巻き込まれ、精神も感覚も常軌を逸する領域へと踏み込んでしまった気がする。

計測機器の異常に始まり、記録の欠落、夜間の声、灯りの揺らぎ、映像に映る影のようなもの――

それらがすべて繋がりり、まるで私自身をその闇の根底へと誘い込むが如く迫ってくる。


この調査を始めたとき、私はただのジャーナリストに過ぎなかった。

だが今、手にした資料や映像の断片から立ち昇る“不在の息遣い”を感じずにはいられない。

そそれは科学的説明の土俵では決して立証し得ない、異形の存在の影である。


--あの廃れ果てた雷電社の荒れ地。

剥き出しの土の上に転がる石たち。木造の朽ちた骨組みと祠。

それはただの遺跡ではない、目には見えぬ「何か」がそこに宿っているのだ。

それが何なのか、私にはまだ確かな言葉がない。

ただひとつつ言えるのは、私の精神は、専門家の正論を無意味に感じられるほど、確実にあの「何か」の一端に触れてしまったということ…。


自分の中で理屈が音を立てて崩れ始めている。

同時に、恐怖と畏怖の感情が収まりなく押し寄せてくる。

あの鉱石の持つ異様な性質、工場の生産ラインで起きる不可解な現象、社員たちちの隠しきれぬ怯え…

それは単なる偶然の連続などでは断じてない。彼らが背負う呪縛の重さが私にも伝わってきた。


世の中には説明がつかないことが確かにある。

だが、それに真摯に向き合えば、身体の根幹を揺るがされるような感覚に襲われるものだ。

理性は抗うが、深淵の呼び声は切実で、一度耳を傾けた者を離さなない。


私は今、誰かに助けを求めたくも、それによって何かを解き放つことへの恐れの狭間にいる。

この手記を読み、これ以上の調査を勧めない者もいるだろう。だが、その禁忌を越し、掘り起こす者もいいるはずだ。


私は願う。私のここに刻んだ断片が、未知なる存在と向き合う者の灯火となることを。

そしてどんな闇の中にああっても、追求の志が折れることなく走り続ける勇気となることを。


これが、私の誓いであり、闇の扉への第一歩である。


2025年8月25日

白井誠

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