02『追放されなきゃ追放モノは始まらないでしょ』
『追放』という言葉がついに彼の口から発せられ、このテーブルに流れる空気は更に重苦しいものになった。
流石に見て見ぬ振りもできなくなってきたのか、周囲の冒険者の騒ぎも徐々に静かになっている。どこか、彼らの様子を見守っている者が増えているようであった。
そして、その沈黙をまず破ったのはアサシンのクラヤミだった。
「キヒヒ……まぁパーティーの戦力としちゃァ、ソイツが入ってくれた方がありがてえよなァ。仕事が楽になンのはいい事だぜェ……」
「ん~、確かにそうね~」
相変わらず気の抜けた語調で同意したのはトロドキだ。
「
「それに比べてツルギの婚約者は『アマヘブン』っつったよなァ? その名前、代々強い魔力を持って生まれる神官の家系らしいじゃねぇか。特別な能力は無いが、野良ヒーラーとしちゃ最高も最高の逸材だぜェ……?」
「勿論よ。回復魔法で私の右に出る者なんて公国にはいないんだから!」
一般的な冒険者パーティーにおいて、生まれつき魔力を持つ
これまでは即席の寄せ集め故に妥協していた魔法使いの不足を補えるのは、このパーティーにとって願ってもない好機だった。
それに加えて、『聖剣使い』と呼ばれるまでに強力なスキルを持つツルギのような者ならともかく、クサリの持つ固有スキル《腐蝕のヴェール》はハズレと称されるほどに周囲からも軽蔑される能力だった。
「ええ……分かって、います……っ」
クサリは俯いたまま、途切れ途切れに、苦しそうに言葉を絞り出した。
ツルギは動揺して何か言いかけたが、チユの方を見て言葉を飲み込み、心臓を抉られたような思いに胸を押さえる。
わざとらしく溜め息を吐いて、トロドキは椅子に強くもたれかかり天井を見上げた。
「これも野良パーティーの
「そうですね、トドロキさん……」
「トロドキね」
意を決したツルギは、まっすぐにクサリの顔を見つめる。当のクサリは俯いて視線を合わせようとはしていない。
「クサリ・カレクチさん。君には今日を持ってパーティーを抜けてもらう。それで……抗議したい事があるなら、ここで僕に言ってほしい。君の気持ちを聞きたいんだ」
「いえ、残念だとは思ってますが、もう……私からはなにも……」
ツルギの言葉に嘘があるわけではないが、クサリにとってはもうのっぴきならない状況だ。一方的にパーティーの追放が決まって、それで抗議の余地を形式上与えただけの茶番。この場の誰もが、こっそりと覗き見ている周囲の野次馬冒険者達もそう思った。
クサリからの言葉がそれで止まった以上、この話はこれで終わりだ。
俯くクサリを見るチユやツルギ、カタイの目は同情的だが、それを言葉にする者はいない。
安っぽい慰めの言葉は今の彼女の傷を抉るだけで、そして誰もが、彼女は今、他人の介入の余地のない程に傷ついていると分かっているからだ。
「………」
──但し、クサリ本人を除いては。
「(だ、駄目だ……まだ笑うな……!)」
クサリはスカートをぎゅっと握って、今にも溢れ出そうな笑いを必死に堪えた。
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