ですから、みんな死んだんですよ
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「世にも奇妙な話があったら教えてほしい」
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世にも奇妙な話、ですか。一個くらいなら私にもありますよ。
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「メモをしてもいいか」
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いいですけど、そんなに凝った話でもないので期待はしないでください。一応実話です。なので、本当に
簡単に言えば、よくある呪いの
私が中学二年の頃に体験した話なんですが、当時クラスでいじめが発生しまして。いじめ行為自体はいたって普通の、普通と言っては不謹慎な気もしますが、まぁ、一般に知られるようないじめです。典型的な。机に落書きするだとかノートを勝手に捨てるだとか、いたずらに金銭を要求するだとか。たまに殴られていたりもしていましたけど。
ただ、その始まり方が少々特殊でして。
いじめられていた子は、名前を高橋と言うんですけど、彼は普段からなかなかの不良だったんです。ええ、なかなかの。そうですね、どのくらいだったかを説明した方が分かりやすいかもしれません。
まず、恐喝行為は日常でした。対象は特定の個人というよりは不特定多数って感じでした。気の弱い人なら先生相手にも強く出ていましたね。やれ宿題を無くせだの、やれ早く授業を終われだの、結構うるさかったです。
あと、そもそも学校に来ないことのほうが多かったですね。。外では暴走族傘下の不良グループに所属していたという噂でしたし、彼にとっては学校というのはままごとの延長でしかなかったのでしょう。
実際、学校中のみんなが高橋のままごとに辟易していました。廊下で彼を見かけたら直ちに俯かなければ何を言ってくるか分かりませんし、授業中も間違って彼の席の近くに消しゴムを落とそうものなら、彼はそれを拾う代わりに金銭を要求してきます。感覚的には災害ですよ、災害。台風や地震なんかよりよっぽど怖かったですね。
でも、中二に上がって早々、彼はいじめられる側になってしまった。
なぜか。それは私も未だに分かりません。ええ、分からないんです。
少々特殊と言ったのは、いじめの起こった理由がどうという話ではないんです。
加害者ですよ。加害者が、高橋と同じ不良グループの仲間だったんです。
三人いたんですけど、いずれも私から見れば不良でした。特に一人は酷くて、ええ、そいつだけは他二人とは別格で、高橋と同じく外部の不良グループ所属で恐喝を日常とするような人間でした。
あの日、登校してきた彼らは自席で寝ていた高橋を見つけるやいなや、ドガンッ、と全力で机を蹴飛ばしたんです。今でも覚えています、大きい音でした。それで、いつもなら高橋も即座に反撃に出るところなんですが、そのときはどうしてか「ごめん、ごめん」と繰り返すばかりでしてね。でも、三人は止めなかった。蹴ったり殴ったり、筆箱の角で、こう、思いっきりやったり。机の脚が曲がっても、高橋の頭から血が出ても、三人は構いませんでした。
ええ、私は遠くから眺めていただけだったんですけど、怖かったですね。とても最後まで見られるようなものでもなかったし、変に目が合ってこっちに向かってきたら思うとゾッとして、途中で教室から逃げ出しました。なので、結局最後どうなったかは知りません。その日は高橋も早退しましたから。
でも、それからは暴力が慢性化してあっという間にいじめに発展したということは、翌日以降の高橋を見ていてもそうですし、すぐに噂にもなったので分かりました。
きっかけはなんだったんでしょうね。学外で喧嘩でもしたんでしょうか。
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「本人たちには訊いていないのか」
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無理を言わないでください。怖いに決まってます。下手に訊いて逆上でもされたら軽く死ねますよ。担任の先生ですら恐怖のあまりしばらくは黙認していたんですから。
そういうわけで、きっかけに関しては私も知らないのであまり勝手なことは言えません。ですが、学内でもトップレベルの不良だった高橋が仲間であるはずの不良たちからいじめを受けて、それ以降二度と登校してこなくなったのは確かです。これだけでも少しは奇妙でしょう?
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「不登校?」
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あぁ、ええ、そうですね。肝心なことを言い忘れてました。そうです、不登校になったんですよ。
そうなったのはいじめが始まってから二週間くらい経った頃ですかね。高橋は元々不登校気味だったんですけど、いじめが続くにつれて明らかに元気がなくなっていったので、ある日プッツリと学校に来なくなりました。まぁ、理由は間違いなくいじめでしょうね。
で、これには流石の先生も激怒しました。担任は国語の教師だったんですが、国語の授業中になにを思ったのか例の三人に向かって突然チョークと黒板消しを
高橋からなにかSOSはなかったのかとか、お前たちも実はこっそり加担していたんじゃないかとか、散々でした。私たちは先生が今まで争いから逃げていたことに気づいていましたから、これこそままごとの延長だと思いましたよ。
ただ、先生はこうも言ったんです。「みんなで高橋を元気にさせて連れ戻そう」と。
権力者にそう言われたら、私たちクラスメイトはなにも行動しないわけにはいきませんでした。協力して高橋の家宛てに手紙を書いたり、授業ノートのコピーを郵送したり、暇を見つけて訪問してみたりと、手を尽くしましたよ。
で、続けているうちに、みんな高橋の家に行くのを楽しみ出しまして。
うちのクラスだけの秘密の作戦みたいな、なんですかね、そういう特別意識もあったんでしょうけど。たぶんあれでしょうね、みんな、不良だった高橋が傷心して引きこもりになっている現状に必要以上に心を打たれたんです。犯罪者が善行をすると普通よりも課題評価されるっていうあれですよ、あれ。
それに、今振り返ると、高橋がいじめられているのに見て見ぬ振りをしていた自分自身を誤魔化すためにやっていたような気もします。私は一回だけ彼の家には行きましたが、行くだけでなんだか仕事をした気分になれました。
まぁ、結局、高橋は戻ってこなかったんですけどね。
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「呪いの藁人形はいつ出てくるのか」
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すみません。そうですね、話が長くなってしまいました。では、本題に入りましょうか。
呪いの藁人形は彼らに対して私が使ったんです。
高橋が不登校になって一ヶ月目のことでした。
不良は怖い。だけど、このまま同じクラスの人間として現状をなにも変えられないまま時間が経っていくのも苦しい。思春期に突入したばかりの私は単純にそう考えました。
結果、呪いという
呪いの藁人形といっても地域や信仰によって多種多様です。釘の代わりに縫い針を使うところとか、そもそも藁じゃなくて麻を使ってやったりと。そんな中、私の頼った知識としては、適当に作った藁人形に標的のDNAを混ぜて、それを手に持った状態で別で用意した標的の写真に向かって実現してほしい呪いを唱える、そして釘を刺す、というものでした。
写真は学期始めに撮影したクラス写真から切り取って、DNAは、本人たちがいない間に机の中を覗いてみたら髪の毛がそれぞれ数本落ちていたので、それを使ったんです。あと、藁は適当にその辺の山に落ちているのを集めました。
で、もう言ってしまいますけど、私は彼らに「二度といじめができなくなるような状態になってほしい」と願って、事実、その後に彼ら全員が亡くなりました。一日につき一人でしたね。私が呪った翌日から一人ずつ順々に死んでいったんです。
死因は様々でした。転落だったり交通事故だったり。すごかったですよ。昨日も死んだのに今日もまた、という調子で、テレビのニュースが鳴り止みませんでした。
当然、学校も長期休みになりましたね。警察の調査ではみんな事故死だったようですが、ここまで連続で同じ中学の同じクラスの生徒が死んでいるとなると、事故に見せかけた動機殺人の線も無視できないですからね。保護者からの電話も相次いでいたらしいですし、私も母から外に出ないように言われました。
それで、私はどうしたのかというとですね。
呪いが実現したのはもちろん怖かったですけど、正直、嬉しかったです。
そりゃあそうでしょう。いくら自分のせいで人が死んだといっても、極めて理想的な方法でいじめっ子を成敗できたんですから、舞い上がって当然です。なんなら誰かに自慢したい気分でしたよ。まぁそこまでの勇気はなかったので、部屋の隅で
呪いの有無については、中学生ながらに五十パーセントは信じていたという感じですかね。仮に彼らが同じタイミングで死んだなら呪いのせいだと信じ切っていたかもしれませんが、実際のところは別々に死んでいったので、偶然そうなったという説を完全に否定することはできませんでした。大人になった今でも同じ感触です。理屈が分からない以上、呪いの有無については考えるだけ無駄だと思っています、
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「藁人形で人を呪ったことはその一度限りか」
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はい、流石に怖くてそれ以来やってませんよ。藁人形を手にしたのは中学二年のそのときだけです。
同じ経験はもうしたくないですね。今はすっかり社会人ですから、ああいう眉唾ものは理性が受け付けません。
それに、もし自分の職場や息子の学校などでいじめが起きても、藁人形なんかには頼らず、普通に話し合います。そっちの方が早いですからね。
こんな感じですかね。創作だったら盛り上がりに欠ける話ですけど、ええ、実話なのでこのくらいでしょう。
え、実話にしては嘘くさい?
いや、まぁ、それはそうでしょうけど。でも、私が本当に体験したことなので、嘘くさいと言われてもなんと返したらいいか。
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「高橋はその後どうなったのか」
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はい? 高橋は死にましたよ?
私の話、ちゃんと聞いていました?
高橋は死んだんですよ?
ええ、ええ。
ですから、みんな死んだんですよ、四人全員。いじめっ子全員を呪ったって言ったじゃないですか。
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「高橋はいじめられていた側ではなかったのか」
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はい、そうですよ。でも、それ以前に、私は中学一年の頃、彼から恐喝被害に遭っていたんです。彼も立派ないじめっ子でした。というか、いじめや不良行為を働いた期間と人数は三人よりむしろ彼の方が多いです。なので、ええ、私は彼の方がいじめっ子と呼ぶにふさわしいと思いますね。
彼の自宅に訪問するのも私は心底嫌だったんです。先生が激怒していたので渋々一回は行きましたけど、もし高橋が玄関からひょっこり顔を出してきたらと思うと怖くて仕方がなかった。言ったじゃないですか、仕事をした気分になれたって。仕事は辛くてもやらなきゃいけないんです。社会に出たら誰もが覚えることですよ。
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