2024年
11月22/21日
28歳・①「厄日」
最初に気付いたのは、朝の情報番組の占いコーナーだった。
『残念〜。今日の12位は山羊座のあなた。昨日の出来事でトラブル発生〜。何事もリカバリーを忘れずに。そんな山羊座のラッキーアイテムはアルファベットのキーホルダー』
『今日もよい一日でありますように!』
そう聞こえてくる女性アナウンサーの甲高い声を、私は今でも覚えている。
「昨日も12位だったのに…ついていない」
そう思い、律儀にイニシャルのキーホルダーがついたバイクの鍵を持って、慌てて家を出た。
『2日続けて同じ占いで同じ運勢』。
出勤前で忙しく、気にも留めなかった。
その頃の私は、地方の商業施設で清掃のアルバイトをしていた。
人と関わりを持つのが苦手な私は、この仕事が向いていた。
朝が早いのもあったが、まだ寝静まった街をバイクで走り、出勤するのが何より好きだった。
いつもの小道を抜け、国道の十字路に入った時だった。
右側から、信号無視をして突っ込んできたトラックとぶつかりそうになった。
思わずクラクションを鳴らす。
何食わぬ顔をしたトラックの運転手は、そのまま走り去って行ってしまった。
「あれ?昨日も突っ込んできたトラックいたよな?」
偶然だと思いつつ、爽快な気分を害された私は、不機嫌なまま職場に向かった。
商業施設とはいっても、規模は知れている。
様々なセレクトショップのテナントが入り、フードコートと映画館が併設された施設だ。
主な仕事は駐車場の清掃、ゴミの回収、モップ掛けなど。
やることはその日のルーティンで決まっている。
その為、午前中には作業も終わる。
私は、この仕事は好きだった。
裏口から入り、警備室にいた常田さんに挨拶をする。
警備員の常田さんとは長い付き合いだ。
私より二回り以上年上だが、余計な詮索はしてこない。
出入りする時に軽く会話を交わすだけだが、人付き合いの苦手な私にはちょうどいい。
常田さんが私に気付き、軽く挨拶をしてきた。
「鷹野原くん。おはよう。また今日もバイク出勤かい?」
「ええ、まぁ」
「あんまり飛ばしてきちゃだめだよ。いつか事故になるからね」
今日すでに事故りかけていることは言わないでおいた。
そもそも、常田さんと昨日も同じような会話をした覚えがある。
気にしすぎだと思い、急いでロッカー室へ向かい、制服に着替える。
「…やってしまった」と、心の声が漏れる。
着替えている時に気づいた。
出勤途中でトラックにぶつかりそうになり、急ブレーキをかけた時、イニシャルのキーホルダーを落としてしまったらしい。
いや、待て。
昨日もキーホルダーを落とした。
そこでやっと日付を確認する。
『11月22日』
「昨日…?」
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