第11話 人間椅子はマンネリです
「おはようございます、タイガ様。本日もよろしくお願いします」
まだ朝早い時間だというのに、既に兎島ダンジョンリゾート学園のダンジョンフィールド前には、ゴシックメイド服をきっちり着込んだ美崎さんが待っていた。
「ふわぁあああ。トラくん、おはようございます」
対照的に、加恋は眠たそうだ。
ほんの少しだけだが、艶やかな金髪に寝癖が出来ている。
「殿方の前でだらしないですよ、加恋お嬢様。今週末はルームメイト様が不在ですので、一人遊びが捗るのは理解しますが。声が部屋の外まで聞こえていましたよ」
「えええぇぇえっ!? うそっ!?」
「……冗談です」
「むき~っ!!」
……朝っぱらから赤裸々な会話をしないで欲しい。
俺? 熊美と熊乃が襲撃してきてそんな時間は取れなかった。
くそ、この仕事が終わればいつものビデオ映写室に……。
そんなの夜の店に行けばいいじゃんと思われるかもしれないが、諸事情でそういう店には行けない俺である。そう、これは呪いのようなものだ。正直恥ずかしいので詳しく言及することは避けるが。
「連日のお願いとなり、大変申し訳ないのですが。本日はアレを試してみたいのです」
「了解です」
美崎さんの言葉に頷く。
なんでもテスト期間前後の週末が、一番加恋のスケジュールが空いているらしく、今のうちになるべくデータを採取したいとのことだ。
今日は日曜だが、報酬に色も付くので受けない手はない。
「タイガ様のマイダンジョンで獲得した素材をお館様らにお送りしましたが、大変喜ばれていました。お二方とも来週から外遊に行かれますから、当面問題ないかと」
加恋の嘘隠蔽作戦も順調らしい。俺としてはちゃんと説明した方が良いとは思うが、他人の家の事だからな。
「美崎、アレって事は……」
休日ではあるが、綾瀬川ダンジョン学園の制服を身に着けている加恋。
本日は少し気温が高いからか、ジャケットを脱いで中間服姿だ。
染み一つない純白の長袖アンダーシャツ。袖口には二本の青紫のラインが入っていて、胸元の同色リボンも合わさり爽やかだ。
「そうです。ブルードラゴンを呼び出したというあの人間椅子です」
「……ふふふ。ケツが鳴りますね」
……なんだこの会話。
そして加恋、目を潤ませるんじゃない。S級お嬢様だろ。
このお嬢様の性癖は先日聞いたが、か弱い存在が強い存在を打ち倒し、支配する逆転モノが大好きらしい。
ぺろり
朱色の舌が、桜色の唇を舐める。
どきんっ
その蠱惑的な仕草に、思わず胸が高鳴る。
そう、加恋はドS。しかもかなり倒錯した角度のSである。抑圧された上級が拗らせるとこうなるのか。
(見た目は)可憐な少女である彼女から見れば、ガタイの良いヤンキーである俺は格好のターゲット。上級国民の間でもSMバーは大人気と聞く。ヤバい噂を実感してしまったぜ。
「まあ、ドMなタイガ様も大概かと存じますが」
「ぐわあああああああああっ!?」
カミソリのような美崎さんの言葉に、頭をかきむしる俺。
加恋との行為を通じて、否応なしに自覚してしまった俺の性癖。
「一定レベルを超えて下位に扱われることで、脳内のダンジョンモデルが活性化してブーストがかかる……変態が役に立つこともあるのですね」
「ぐうっ!?」
美崎さんは切れ長の目をした美人さんである。絶対零度の視線も悪くない。ああ、悪くないのだ。
「ということで、可愛い子トラくん? 四つん這いになりなさい」
「……はいっ」
ぺろりと人差し指を舐め、俺を見下ろす加恋の碧眼に俺は逆らう術を持たないのだった。
◇ ◇ ◇
「それでは、失礼します(ふ~っ)」
むぎゅっ
「うっ!?」
わざわざ俺の耳の近くで囁いてから、加恋が俺の背中に座る。
今日は中間服だからか、少しスカートが薄手なのだろうか。
加恋の体温を先日よりはっきりと感じる。
どきどきどきどき
「ふふ」
加恋がローファーの踵を宙に浮かせ、全体重が俺の背中に掛る。
正直、少しだけ重いがそれが加恋が俺の背中に座っているという事実をより実感させて……。
「はい、そこまで」
無慈悲な美崎さんの合図が、ちょっとだけ恨めしかった。
◇ ◇ ◇
「んん? おかしいですね?」
ダンジョン探索を終え、取得した情報をタブレットで見ながら美崎さんが首を傾げている。
「ドラゴン出ませんでしたね……」
加恋も思案顔だ。
そう、先日と同じ条件でマイダンジョンを展開しダンジョンに潜ったのだが出現したのはゴブリンロード4体。
普段より少しだけ条件は良いが、ドラゴンには遠く及ばないCランクモンスターだ。
加恋がより薄着だったからか、前回よりドキドキしたのは確かなんだが。
「……ふぅ、残念です。トラくんの背中はすでに中古という事ですか」
「ひでぇ!?」
ため息と共に零れたのは、とんでもない畜生発言だった。
「いやいや、中古なのは加恋のケツの方かもしれないだろ!」
「んなっ!? なんてことを! 毎日ハルメスのボディオイルとコラーゲンたっぷりのド○ホルンでケアしていますからむちむちぷりんですぅ!」
「……たまに思うが、加恋の語彙ってちょっと古いよな。ホントに16歳か?」
「が~ん!」
すっかり打ち解けた俺と加恋だが、加恋のケツが変わらずムチムチだったのは本当だ。何か別の要因が影響していたのだろうか。
改めてステータスを開きなおす。
========
氏名:尾路 田井我
年齢:21歳
ダンジョンランク:F
エディットブロック:2
HP:1200/1200
MP:140/280
攻撃力:320
……
ダンジョン展開回数:2,939
■エロステータス■
尻技:2回(+1)
足技:1回
手技:0回
露出:0回
M度:88(+10)
バブみ度:5
発射回数:0回
========
……何度見ても人に見せられないステータスである。
大体この発射回数ってなんだ?
自家発電すると+1されるのか? いやいや、この値必要か?
バブみ度という恐ろしい項目から目をそらし、美崎さんに聞いてみようとするが、当の彼女はこちらに視線をやることなくタブレットの画面に見入っている。
「もしかしたら……”慣れ”かもしれません」
「な、慣れ?」
いきなり倦怠期に入った夫婦のようなことを言い始めた美崎さんに困惑する。
「はい。加恋お嬢様、タイガ様ともたぐいまれな変態性を持つお方……常に新しい刺激を求めないと、共昇(リンク)が発生しないのかもしれません。リンクが無ければブーストの幅も小さくなる、と」
「ええっと、つまり?」
加恋はともかく、俺まで類まれな変態と言われるのは心外だが、美崎さんが言いたいことは何となくわかる。
「エロソムリエとして、新たな行為の開発を進めて頂く必要がありますね」
「…………」
美崎さんから告げられたのは、嬉しいんだか悲しいんだか分からない指示であった。
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