第一章

 全砲門を開け、目標はアウシュビッツ要塞。

 皇帝、カエサルからの命令により飛行軍艦は砲門を敵に向けた。乗艦しているのは黄金の皇帝ユリウス・カエサルである。金のすべてを支配する錬金術師であり、王家は代々絶対的金属の支配者だ。水銀、黄金、鋼鉄。軍需と工業が必ず鋼鉄に依存する以上、王が軍務に就くのが常である。それが王たる勤めだ。その中で黄金が皇帝として軍事に重視しているかであるが、すべての機会的計算に黄金は切っては切れぬ関係だ。

 カエサルはいくつもの宝石を持つ指輪で軍艦の電子回路を開く。視界に遥か彼方の要塞が浮かぶ。山脈を城に、渓谷をコンクリートと石垣で塞ぎ、数百の砲台が的に向けて空を穿つ城。堅牢にして鉄壁の大要塞。ルフテンの軍事の最高機関であり、最強の軍が常駐する、唯一ローマに仇名す国の要塞。アウシュビッツ要塞。この城を叩き潰せばルフテンごとき造作もない。

 「俺の軍は最強だ。先祖の野望を悲願を果たすのはこの俺の代である」

 カエサルは傲慢な王だがその実力は持って生まれたものだ。

 電子的計算が魔法回路に走る。原子炉を超える高密度の電力がたった一門の巨大な主砲に注がれる。液体窒素ガスによる絶対零度にまで冷やされた砲に音速の巨大な針のような細長い火薬をともわぬ鋼鉄の槍が飛翔する。

 白く凍った砲身は瞬時にして蒸発し、蒸気を発する。

 放たれた砲弾は玄武岩を貫く。要塞から警報が鳴った。瞬時に百門の砲門から弾薬が飛ぶ。魔法で周囲の空気が押しやられ、真空の弾道に、一切の抵抗の消えた砲弾が向かう。カエサルは魔法回路にそのすべての弾道を計算させ、全ての砲を開かせる。

 間髪入れぬ砲撃は命中せぬ弾頭を無視し、直撃する脅威のみ選別し、迎撃する。ありえぬ芸当を可能にするのがカエサルである。

 手前で無数の砲弾が爆発し霧散する。激しい衝撃が走る。艦が揺れるが誰一人として動揺はせぬ。その程度の軍人が戦争に参加するべきではないのだ。

 それがサドヒズム(加虐的思想主義)が跋扈ばっこする世界だ。



 「クソが、何だこの砲撃は!」

 「玄武岩だぞ! この地上で最も硬い岩石だ! それを打ち砕くなんて!」

 「安心しろ山を貫いてはいない! 敵の攻撃は人智の範囲だ! 神の攻撃とはなんぞかは我らが教えるべきだ! 服従するなアウシュビッツ!」


 士気高い軍人たちの中でアンネは冷静に考えていた。

 あの程度の木偶の坊がこの要塞にたった一隻で挑むななど核の炎の中に突っ込むようなものだ。頭に蛆がわいたのならば話は別だが、その頭で軍事の頂点に立てるほどローマは愚者の国ではない。

 「積んでいるのだろうな」

 「ええ、魔法族にのみ効果を有する悪魔の兵器、戦略魔法弾」

 世界大戦の引き金になった魔法鉱石を臨界点にまで内部魔法を増幅させ、やがて鉱石としての結晶を崩壊させるほどの熱量で外に爆発と灼熱をもたらす。その威力は広島型核爆弾に匹敵するが、それ以上に魔法族の魔法回路に甚大な損傷を与える。魔法回路とは遺伝子だ。それを傷つけられれば魔法族の魔法行使は困難になる。魔法に依存した細胞はがん化し、他の正常な細胞を圧迫し、同じくがん化させる。あるいは魔法行使のたびに暴発させ、魔法族を死に至らしめる。

 戦略魔法弾は威力を押さえれば非魔法族には大した爆弾ではないが、魔法回路を傷つける点では核以上に凶悪だ。

 現状、核ならば鉛の防壁でどうにかなるが、魔法放射線は物質的質量がない以上、防壁は無意味だ。唯一あるのは魔法障壁という魔法を使った障壁だ。一級以上の魔法使いが使える魔法だが、全軍人となるとそうではない。ほとんどが三級以上である。つまり、撃たれれば軍組織が崩壊する。

 「どうあっても叩き潰すのだ。あの船を!」

 アンネは机に剣を立てて叫ぶ!

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