第2話 目的の場所は

「……」


 渚は麒熊が胡桃を肩車して楽しそうにしている中、ばれないように距離をとる。


「……?」

「渚、距離を取られると傷つくからやめてくれ」


 麒熊は甲高い声で涙目な表情を見せる。


「……」


 渚は渋々な様子で距離を縮めながら麒熊と一緒に歩いた。


「……」


 回りを見ると、[あれ?] [何?]と小さく声が聞こえる。


 進学校でも、麒熊と胡桃の肩車を地元なので見慣れている人は大丈夫だ。


 だけど、物珍しく見ている人は多い。


 過去にSNSでも2mの男が胡桃を肩車している姿を顔を隠して上げている人もいるぐらいだ。


 その時に何故か隣の渚も写っていた。


 流石にSNSで上がった時は、麒熊に[肩車を止めるように]言った。


 麒熊は[胡桃が笑顔で肩車したいと言うからな]と照れ臭そうな様子で回答が返って来たので諦めて、胡桃に[SNSで上がるとトラブルやら何かあるからやめるよう]に言った。


 胡桃から[わーい! 麒熊ちゃんとラブラブな姿をSNSに見せられるなら、これから毎日肩車するぞ!]

と楽観的過ぎる言葉が返って来て、渚は過去に頭を抱えたことがあった。


「……」


 麒熊は和んだ様子で胡桃を肩車している。

 

「気持ち良いな!」


 胡桃も楽しげな様子で笑顔を見せている。


「……」


 渚は帰りたいと思いながら目的の場所まで歩く。


「麒熊ちゃん、下ろして」

「あいよ!」


 胡桃の声に従い麒熊はゆっくりと膝をついて下りやすい体制を作る。


「胡桃ちゃん、どうした?」


 麒熊が聞くと胡桃は下りて携帯画面を見始める。


「ごめん、用事が出来たからちょっと行ってくるね」


 胡桃は笑顔を向けて走り始めた。


「胡桃ちゃん、気をつけてな」


 麒熊は笑顔を向けて胡桃に手を振る。


「渚、1時間後に行くから逃げたら駄目だよ!」

「……」


 渚は無言で手を振り頷いた。


「渚、逃げたら胡桃ちゃんに毎日説教されて、めんどいことになるからな」


 麒熊は優しい笑みを向けて言う。


「過去のやらかしはしないから大丈夫だよ」


 渚は疲れた表情を見せて言う。


 過去に胡桃、麒熊の付き合い始めた頃に一緒に遊ぶのを断りまくった。そして、とある日に下校中に突然、胡桃が渚の帰り道に立っていた。


 胡桃は作り笑顔でめちゃくちゃ不機嫌そうな様子で切れていた。[あのー何かしたかな?]と恐る恐る確認する。


 胡桃から返って来たのは[麒熊ちゃんが悲しげで寂しいしあたしも楽しくないから断るの禁止!]と言われた。


 そこから、1時間は説教をされた。


 説教を終えた後は、[胡桃の約束! 外出や遊びには必ず3人で一緒に行くこと]になった。


 約束破ったら[毎日、1時間、胡桃の説教タイムをする]と言われたら渚は素直に頷いた。


 一応こちらも用事がある時は、しょうがない。


 だが、胡桃は嘘か本当か裏取りをして来るので基本は強制参加に等しい状況である。


「麒熊、目的の場所はカラオケか?」

「ああ、そうだ」


 楽しげな様子で麒熊は答える。


「……なあ、麒熊」


 渚は気になった様子で麒熊を見る。


「どうした?」


 麒熊は上機嫌な様子で反応する。


「……被害妄想かも知れないが、麒熊から距離を離れた段階で誰かに見られた感覚があったんだ」


 渚は無表情で麒熊に言う。


「気のせいだろう」


 麒熊は上機嫌に即答して答える。


「麒熊が言うなら、大丈夫だな」


 渚は安心した表情を見せる。


 そして10分程、歩くと目的地のカラオケ屋に着いた。


「……閉店と書かれているね。定休日かな?」


 渚はカラオケ屋のドアの前には閉店の小さな看板がかかっていた。


「……」

「しょうがない。胡桃に連絡して解散にしよう」


 無言になっている麒熊に声をかける。








 突然、麒熊がドーン! とドアを勢い良く蹴り上げで開けた。


「おい! ボンクラ店長!! さぼってんじゃねえぞ!!! おらあーーー!!!!」


 麒熊は覇気力が高めな声で言った。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る