第13話 悪党が密会するのは深夜と相場が決まっている

 俺とリーゼロッテはアクトーク商会の外に出る。

 するとそこにはアインスの姿しかなかった。


「戻りました。それでツヴァイさんはどこへ」


 リーゼロッテは疑問に思い、アインスに問いかける。

 だがその答えは予測出来るものだったので、代わりに俺が口を開く。


「馬車を追ったんだろ」

「さっすがクロイツちゃん。その通りだよ。ワルイらしき人が乗ってたからね」


 動きが早いことだ。さすがアインスとツヴァイといった所か。


「俺達も追うぞ」

「えっ? どうやって追うのですか? 馬車がどこへ向かったかわからないし、そもそも人が走って追いつけるのですか?」


 リーゼロッテの疑問はもっともだ。

 だけどその心配はない。何故なら⋯⋯

 俺は迷いもせず、月が照らす王都の道を駆ける。背後からはアインスとリーゼロッテが追ってきていた。


「本当に馬車の向かった先はこちらでいいのですか?」

「ああ。百%間違っていないから安心してくれ」


 俺は自信満々に答えるが、リーゼロッテは訝しげな目を向けている。

 まあ当然か。はたから見れば俺は適当に馬車を追っているように見えるかもしれない。だけど俺には明確な理由がある。

 俺は走りながらチラリと地面に視線を向けた。


「足元を見てくれれば、俺の言っていることがわかるよ」

「足元ですか? あっ! これは⋯⋯羽ですか」


 そう。俺達が進む方向には所々白い羽が落ちていた。


「こっちだ」


 十字路の左側に白い羽が落ちていたため、俺は躊躇いもせず左に曲がる。


「なんですかこの羽は? まさか⋯⋯」

「ツヴァイが俺達のために置いていったんだ」

「羽を? どうやってそのようなものを⋯⋯」


 もちろんツヴァイが常時懐に羽を持っていた訳ではない。


「まあそれはそのうちわかるよ。今はツヴァイを追うぞ」

「わかりました」


 俺達は羽の示す方向に向かって駆ける。すると羽は街の中央へと向かっていた。

 中央区画には多くの貴族が住んでいる。やはり俺が予想している場所へと向かっている可能性が高い。

 悪党が密会して悪巧みをするのは、人目がつかない深夜と相場が決まっているからな。

 そしてしばらく羽を辿って行くと、一つの大きな屋敷の前にたどり着いた。


「クロイツ様」


 突然建物の陰から声をかけられたので視線を向けると、そこにはツヴァイの姿があった。


「馬車はこの建物に入っていきました」

「追跡をしてくれてありがとう」

「いえいえ〜⋯⋯クロイツ様のためなら」


 俺はお礼の言葉を伝えたが、ツヴァイは何故か頭をこちらに向かって下げていた。

 何だ? 何でお礼を言われたツヴァイが頭を下げているんだ? それに上目遣いでチラリと何度も見てくるし。


「早く♪早く♪」


 どうやら何かを催促されているようだ。

 ん? もしかして⋯⋯

 俺は差し出された頭を撫でる。

 するとツヴァイは嬉しそうな声を上げた。


「う〜ん♪ 満足満足♪」


 どうやら俺の選択は間違っていなかったようだ。

 だがある意味選択を間違えてしまったかもしれない。何故ならツヴァイの頭を撫でたことによって、不機嫌にしている者がいるからだ。


「お姉ちゃん浮気は良くないと思うなあ」


 ルイ姉が頬を膨らませて、如何にもご機嫌ななめといった様子だ。


「いや、別に浮気じゃないだろ? アインスと付き合っている訳じゃないんだから」

「そんなこと言うんだ。クロイツちゃんひどい」


 ひどいって⋯⋯何で事実を言って怒られなくちゃならないんだ。


「アインスちゃん残念でした。クロイツ様の寵愛は私のものです」

「一度頭を撫でてもらっただけで随分強気だね。私なんてもっとすごいことをされたことがあるから」


 二人の間に火花が飛び散る。頭を撫でただけで何故か一触即発の空気になってしまった。


「今はどういう時かわかってないのか。喧嘩するなら後でやってくれ」


 俺はツヴァイとアインスを注意するが反応はなく、完全に二人の世界に入っているように見えた。


「それならどっちが活躍出来るか勝負しましょ」

「わかった。クロイツちゃん⋯⋯この屋敷にいるワルイとボーゲンにお仕置きすればいいんだよね」

「それじゃあ。用意⋯⋯スタート」

「ちょっと待て」


 アインスとツヴァイは俺の静止を無視し、屋敷の中に向かって走り出す。

 勝手な行動はしないでほしいんだけど。

 俺は二人の行動に頭を抱える。


「統率が取れていませんね。もしこれが騎士団でしたら軍法会議ものですよ」 

「仰る通りです」


 俺はリーゼロッテの言葉を認め、項垂れる。


「それより二人を止めなくていいんですか? アクトーク商会とは違って、貴族の家には私兵がいますよ。もし二人が遭遇したら⋯⋯」

「ああ、それなら心配してないから大丈夫」

「大丈夫? それはどういうことですか?」

「見ればわかるよ」


 俺達はアインスとツヴァイの後を追う。

 すると俺が予想していた光景が目に映るのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る