第四章 ダークマター

朝の光が、雪に覆われた窓からかすかに差し込んでいた。


昨夜の出来事が夢でなかったことを、食堂に集まった全員の顔が物語っている。誰も、ほとんど眠れなかったようだった。


「警察への連絡は?」


北村博士の問いに、田中が首を振った。


「電話は通じません。携帯の電波も圏外。この吹雪では、ヘリも飛ばせません」


「つまり、私たちだけで何とかしないといけないということね」


美咲の言葉に、重い沈黙が流れた。


相沢が立ち上がった。


「教授の部屋を調べるべきだ。何か手がかりがあるかもしれない」


私たちは黒田教授の部屋へ向かった。質素な部屋だった。ベッド、机、本棚。それと、壁一面に貼られた天体写真。


机の上には、分厚いファイルが置かれていた。表紙には「人事考課資料」と書かれている。


「これは...」


相沢が中を開いた。そこには、私たち全員の評価が記されていた。


『相沢助手:有能だが野心的。時として手段を選ばない』

『北村博士:優秀な研究者。しかし、20年前の件で信用できない』

『山崎管理人:健康上の不安。引退を勧告すべきか』


私の名前もあった。


『T.詩織:科学哲学専攻。なぜ天文台に? 要観察』


美咲が私の手を握った。彼女の評価も気になったが、今はそれどころではない。


「20年前の件って何だ?」


相沢の問いに、山崎が重い口を開いた。


「20年前、ここで大学院生が一人、凍死した。東側の扉から外に出て、吹雪の中で道に迷った」


「それがなぜ北村先生と?」


「その院生は、北村先生の恋人だった」


北村博士の顔が青ざめた。


「あの事故は...黒田教授の責任よ。観測を強行して、安全確認を怠った」


「でも、公式記録では...」


「公式記録は嘘よ!」


北村博士の声が震えていた。そこには、20年間抱え続けた怒りと悲しみが滲んでいた。


本棚の奥から、もう一つのファイルが見つかった。「事故調査報告書」と記されている。


中を開くと、そこには驚くべき記述があった。


『遺体発見時、まだ体温が残っていた。もし発見が1時間早ければ...』


「つまり、すぐに捜索していれば助かった可能性があるということか」


田中の言葉に、山崎が頷いた。


「私が第一発見者だった。朝の5時頃、東側の扉の外で...でも、教授は夜中に行方不明に気づいていたはずだ」


美咲がノートパソコンを開いた。


「20年前の12月12日...その日も金星の観測予定だったみたい。天文暦のデータベースに記録が残ってる」


偶然の一致にしては、できすぎている。


「今回も金星。そして東側の扉」


私の呟きに、みんなが顔を見合わせた。


黒田教授は、何を隠していたのか。そして、なぜ死ななければならなかったのか。


窓の外では、雪が止む気配はなかった。

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