初仕事

「おぬしには、儂の代わりに異世界転生させる神になってもらいたいのじゃ!」

無駄にキラキラした笑顔を僕に向ける老人。

それに引き換え、僕の顔はぴくぴくと引きつった。


「ちょっと待ってよ お爺さん!」

「誰が爺さんか。儂は神じゃぞ。あ、もと神じゃった。もう神の座は譲ったからの」

「譲られてねーよ!!」


「じゃが、嬉しそうじゃぞ?」

「これは顔が引きつって笑顔みたいに見えるだけです!」

「そうなのか。まぁそんな事はどうでもいいわい。それでは、さっそく初仕事じゃ。儂の希望を聞いてくれ。能力値は考えてあるぞ。なにせ時間はたっぷりあったからの。まず…」


「だから待てって、爺さん!」

流暢に喋りだした老人を僕は遮った。

「なんじゃ? せっかく楽しくなってきたところじゃと言うに」

「僕は楽しくないよ!っていうか、いきなり初仕事とか言われても、何をどうすりゃいいのか分かんないよ!?」


「ふむ。やる気はあるようじゃな。結構、結構」

笑みを浮かべる老人。

「いや、やるとは言ってないけど! …ただ、ちょっとは興味あるかも…くらいだし」


「まぁ、おぬしは初めてじゃから、今回は儂が自分で設定するとしよう。

 まず年齢じゃが、おぬしと同じくらいの若い姿が良いな。

 次に能力値じゃが、世界最強にするぞ。しかしいきなり最強ではちとつまらぬから、最初は制限リミットを設けるのじゃ。経験値稼ぎをしてレベルを上げると徐々に能力が解放されてくるというわけじゃな。と言っても勝てない強敵に出会った場合は一時的に制限を解除するのじゃ。リミットブレイク!恰好いいであろう?

 今までに溜めたポイントが大量にあるから、これくらいは楽勝で出来るはずじゃて」


矢継ぎ早に要望を並べる老人の勢いに、僕は付いていけない…。

「え?え?う?…いきなり色々言われても、頭が追い付かないよ!?」


「なに、理解する必要は無い。おぬしは“承認”と言いさえすればよいのじゃ」

「しょ、承認?」


僕は老人に疑問を訊ねたつもりだった。

しかし僕が「承認」という言葉を口にした途端に、老人の身体が光に包まれて輝き出した。


「それじゃ、後は任せたぞーい!」

そしてフッと老人の姿が消えた。


「うわあ、待ってよ! 今のはそうじゃなくて!?」

僕は老人のいた方に手を伸ばしたが、既に老人の姿は無い。


「…僕一人でどうしろって言うんだよおおお!?」

一人残された部屋の中に、僕の叫び声がこだました…。

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