第8話【セレスフィア視点】聖女の噂と王都への道

王都までの空路は、およそ五日の道のりだ。

私の宣言通り、私たちはグリフォンの背に乗り、太陽の光を浴びながら、堂々と王都を目指した。眼下には、王国の広大な大地が広がっている。

黄金の神獣が空を舞う姿はあまりにも圧倒的で、道中で私たちに害をなそうとする者は誰一人としていなかった。

農夫は鍬を手に空を見上げ、街道を行く商人は馬車を止めて祈りを捧げる。私たちの姿は、瞬く間に王国中を駆け巡る噂となった。


『銀髪の乙女が、神獣グリフォンを駆る』

『その御手には、万病を癒す青き宝珠が輝くという』


旅の途中、私たちは補給のために、とある村に立ち寄った。

その村は、黒い病に侵されていた。村人たちは皆、肌を黒ずませ、高熱にうなされていた。大神殿から派遣されたという神官も、匙を投げて去ってしまった後だという。


ポヨン様はグリフォンから飛び出すと、一直線に井戸へと向かい、ためらうことなく、水の中へぽちゃんと飛び込んだのだ。

「ポヨン様!」

私が悲鳴を上げる間もなく、奇跡は起きた。

井戸の水は、ポヨン様を中心にみるみるうちに浄化されているようだった。ぷはーっとポヨン様は水面から顔を出した。

そして、病に苦しむ村人たちの元へ飛び回り、その体に触れて回る。あれほど村人たちを苦しめていた黒い痣は嘘のように消え、皆、穏やかな寝息を立て始めたのだった。


この一件は、私たちの噂に「聖女」という称号を与えたことを、のちに知ることになる。


旅路の終わり、ついにアストライア王国の王都が見えてきた。

天を突くようにそびえ立つ白亜の王城。その威容は、この国の権力と繁栄の徴。そして、これから私が戦いを挑む、巨大な城塞そのものだった。

きっと今頃、王城では私たちの噂で持ちきりのはずだ。驚愕、懐疑、そして警戒。既に何らかの策を巡らせているに違いない。


私は、グリフォンの首筋をそっと撫で、腕の中の温かい小さな命を抱きしめる。

「ポヨン様。これから、たくさんの怖いことや、汚いことを見ることになるかもしれない。でも、私は、あなたと、この国の人々を守るために戦う。だから、どうか、私に力を貸して」


私の覚悟に応えるかのように、ポヨン様は、ぷるん、と一つ、力強く体を揺らした。

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