第23話 予選突破、そして本戦へ


二戦目を勝ち抜いたとき、観客の空気が変わったのを肌で感じた。

ざわつきは驚きと期待に変わり、私の名前を呼ぶ声さえ混じっていた。

胸の奥が熱くなる。


けれど、その余韻を噛み締める間もなく、控え室に戻ると体の疲れが一気に押し寄せてきた。

腕が震え、足も重たい。

何より心臓がまだ早鐘のように打ち続けている。


「ティナ、大丈夫か?」


すぐに彼の声が降ってきた。

その声音に、張り詰めていたものが少し緩む。


「……うん。なんとか。次もあるから、休まないと」


無理に笑ってみせる。

けれど彼は私の顔を覗き込み、首を横に振った。


「無理するなよ。お前の頑張りは、俺がちゃんと見てるから」


その言葉に胸の奥がじんわりと温まる。

誰よりも欲しかった言葉を、いつも彼がくれる。

それだけで、まだ立っていられる気がした。


――そして三戦目。


相手は大柄な男子生徒。

腕には金属の装具をまとい、力任せに突進してくる。

一撃を受ければ即終了。

観客も「これは無理だろう」と囁く。


(怖い……でも、負けられない!)


必死で風を纏い、攻撃をかわし続ける。

だが体格差は圧倒的で、舞台の端へと追い込まれていく。

息が乱れ、足がもつれそうになる。


「ティナーー! お前ならできる!!」


声が届いた瞬間、震えていた膝が踏ん張りを取り戻した。

相手の突進に合わせ、風を纏わせた足を床に叩きつける。

生じた衝撃で一瞬だけ相手の動きが乱れ、その隙に体をひねり込む。


「はぁっ!!」


渾身の蹴りが相手の胸を撃ち抜き、巨体が後ろへと吹き飛んだ。

審判が勝利を告げると、観客席から歓声が沸き起こる。


私は荒い呼吸のまま、観客席を探す。

彼の姿を見つけたとき、自然と笑みがこぼれた。

「すごかった!」と叫ぶ声に、胸がいっぱいになる。


(……私、見られてる。ちゃんと、見てくれてる……!)


――四戦目。


相手は魔法の使い手だった。

炎を自在に操り、距離を取って攻めてくる。

防御を固めるだけで精一杯。

熱気に喉が焼け、意識が朦朧としそうになる。


「ティナーー! 諦めるなーー!!」


その声が、意識を引き戻した。

諦めたら、また“誰からも見てもらえない”存在に戻ってしまう。


風を集中させ、炎を断ち切る。

そのまま舞台を駆け抜け、相手の至近へ踏み込む。

拳に全てを込めて打ち抜いた瞬間――炎の壁が崩れ、勝利が決まった。


観客の空気が完全に変わっていた。

「ティナ、強い!」

「本物だ!」

そんな声が飛び交う。


でも、そんなことよりも大切なのは。


「ティナ! よくやった!」


彼の声。

その笑顔。

それだけが、私を支えていた。


――そして予選最終戦。


連戦で体は限界を超えていた。

足も腕も震え、呼吸をするだけで胸が痛い。

正直、立っているだけで精一杯だった。


相手の姿を見た瞬間、心が折れかける。

アリスの友人で、すでに学年でも有名な実力者。

観客も「これは決まりだな」と囁く。


(……どうして、こんなに辛いんだろう。もう倒れたい……)


心が沈んでいく。

そのとき、聞こえた。


「ティナーー! 最後まで一緒に戦おう!」


振り返れば、観客席で全力で手を振る彼がいた。

真剣で、必死な声。

私のために、こんなにも――。


(……そうだ。私は一人じゃない。見てくれる人がいる。信じてくれる人がいる!)


体の奥から力が湧き上がる。

足を踏み出し、魔法を放つ相手に真正面から挑む。

炎と風がぶつかり合い、舞台が光に包まれる。


最後の瞬間、拳に風を纏わせて突き抜けた。

相手の魔法を突き破り、その体を押し返す。


審判の声が響いた。

「勝者――ティナ・エルヴェンス!」


会場が揺れるほどの歓声。

「予選突破だ!」

「本戦出場者にティナが……!」


歓声が遠くに感じた。

私の視線はただ一人に向かう。


「ティナーー! やったなーー!!」


泣き笑いのような彼の表情を見て、張り詰めていたものが崩れる。

涙が溢れ、膝が震え、倒れそうになる。

けれど、その前に彼の声がまた届いた。


「大丈夫だ! 俺がいる!」


――その言葉だけで、私は立っていられた。


こうして私は、誰もが疑い、笑っていた中で。

ついに本戦への切符を掴んだ。


だけど、本当の意味での戦いはこれからだと、胸の奥でわかっていた。

そしてその戦いを、私は“彼と一緒に”歩んでいくのだ。

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