王太子に毎日求愛されるけど受け入れられません!貴方は聖女と結婚するので
秋梨ミドリ
第1話 王太子殿下
「今日は君に伝えたいことがあるんだ。」
美しい庭園の中心で、ルイ殿下は俺の前に跪いた。
「マティス公爵令息、正式に私の婚約者になっていただけますか?」
普段の少し砕けた口調とは打って変わって、真剣な雰囲気にドキリとする。
「はい、勿論で、す……」
俺も居住まいを正し返答する。それと同時に、今まで感じた事のない衝撃が全身に走った。
「ありがとう……!嬉しいよっ、これからよろしくね。」
目の前の人物に抱きしめられるが、とてつもない違和感を覚えた。美しい顔をクシャリと歪めて、今にも泣き出しそうなほどに喜んで見せている目の前の少年。先程までは彼に対して愛しいという感情しか持っていなかったし、本来であれば俺からも腕を回し抱きしめ返していた筈だ。しかし今は全く別の感情、そして存在しなかったはずの記憶が流れ込んできていて、状況が整理できずに固まってしまう。頭がガンガンと痛い。
「お二人共、おめでとうございます!すぐに手続きを致しましょう」
「最高の婚約パーティにしましょうね!使用人一同、全力で準備しますから!」
ワッとお祝いムードで盛り上がる使用人達に対して、少年は嬉しそうにはにかみながら答えていた。
「みんなありがとう。暫くは仕事が大変になってしまうかもしれないけど、よろしく頼むよ。」
「何をおっしゃいますか!殿下の幸せのお手伝いをさせていただけるなんて、これ以上に嬉しいことはありません!」
「ええ!マティス様が婚約をお断りになることは無いと分かっていても、昨夜はあれ程緊張していたのですから……今は何も考えず、全力で喜んで下さい!」
「ちょ、ちょっと、あまり恥ずかしいことは言わないでほしいな」
緊張していたことがバレて恥ずかしいのだろう、頬を染めた少年が気まずそうに俺を見た。きまりの悪そうな顔ですらも色気と気品があり美しい。
「あの、先程の返事、取り消すことは可能でしょうか……?」
盛り上がっているが、このままではまずい。どうにかしないと。正直動揺で頭が痛い。逸る気持ちを抑え、意を決して口を挟んだ。
会話が止まる。急な静寂に胸がキリキリと締め付けられた。
「マティス様……?そ、それは一体どういう……」
使用人の一人が理解できないというように問いかけてくる。あれだけ祝福されていて、今から婚約を断るなんてできる雰囲気じゃない……そんな事は勿論分かっている。しかし事情が変わったのだ。あえて空気を読まずに発言した俺をむしろ褒めて欲しいぐらいだ。
「ごめんなさいっ、やっぱり殿下と俺の婚約はナシにしていただけないでしょうか!!!」
もう、なるようになれ!思い切って声を上げた。婚約を防ぐには今しかない。"思い出した"のはつい先程の出来事だ、タイミングが良いとは言えないが仕方なかった。
伺うように周りを見ると、俺の急な方向転換に理解が追いついていないようで皆それぞれ戸惑っているようだった。
「た、戯れ事……でございますよね?まさかそんな……」
「私が余計な事を言ったからですか?婚約前に緊張するなんて男気が足りないと……」
「ち、違うわっ……!そんなことで失望するような御方では無いはず!私達が何か、何か失礼な事をしてしまったのかも……」
何かの間違いだと狼狽える者、自分のせいかと責任を感じる者、受け入れられずに身体を忙しなく動かす者……殿下に仕える使用人達の混乱は、多様に渡っていた。
そりゃそうなるよな、今まで婚約していないのが不思議なくらいだったのに、急な拒否とか。自分たちのせいなのかと焦りだす人に対しては特に申し訳無さでいっぱいになる。冗談だと訂正したい気持ちは山々だが、そうもいかないのが実情であった。
「マティス」
先程まで幸せそうだった少年も、今はただ困惑している様だった。名前を呼ばれ縋るような目で見つめられる。
「……ごめん」
改めて謝罪すると、傷ついた顔をされる。しかし、少年はすぐに真剣な面持ちに変わると、凛とした声で周りに告げたのだった。
「彼と少し話がしたい。二人きりにしてくれないかな。」
それは俺にとっても有り難い提案だった。周りの使用人と一緒に、俺も頷いていた。
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